本年度は、当初の研究計画に基づいて、(1)観応の擾乱を画期とする幕府支配体制の変化、(2)南北朝期室町幕府の所領秩序、の2点を中心に検討を進めた。 (1)については、幕府発給文書(軍勢催促状、感状、執事施行状、引付頭人奉書など)の分析、および、足利一門守護・大将と外様守護との権限上の相違を踏まえつつ、幕府が守護・大将それぞれにいかなる役割を期待していたのかについて分析をおこなった。これにより、観応の擾乱以前の室町幕府支配体制における守護・大将の軍事・行政両面の位置づけを明らかにした。また、観応の擾乱を画期に、守護を介さず幕府と直接結びつく国人層が登場する契機を明らかにした。 (2)について、将軍権力による所領給付・安堵と守護・大将による所領給付・安堵とを相互に関連させ、南北朝期室町幕府の所領秩序を明らかにするために、これまでに収集した守護・大将発給宛行状・預状・安堵状に加え、将軍発給の宛行状・預状・安堵状(現時点で約970通を確認済み)を収集・整理した。今後はさらに事例を増補しつつ、所領給付・安堵対象地の性質や分布状況、地域偏差について考察を進める予定である。 またこのほか、将軍による恩賞宛行いを貫徹させるために南北朝内乱期に新たに登場し、展開していった管領施行状について分析した亀田俊和氏の著作について、その成果や意義、課題を整理した。これは書評としてまとめ、『史学雑誌』に投稿し、受理されている。
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