研究実績の概要 |
近年、多様な外場に応答する多重外場応答性錯体に関する研究が盛んに行われている。それに伴い構築した錯体の実用化に向けた試みも多様化している。本研究では既報の多重外場応答性一次元鎖錯体を修飾し新たな集積構造体の形成および新規物性発現、素子化を目的としている。前期に報告したカウンターアニオンを交換することで様々な溶媒に可溶となった一次元鎖錯体の転移挙動について調べるため、温度依存磁化率測定および温度変化UV-vis吸収スペクトル測定を試みた。結果として、転移挙動の観測に至らなかった。これはカウンターアニオンの置換によりコア構造周りの環境が変化したことおよび、結晶性の低下に由来するものと考えられる。適切なカウンターアニオンの選択と結晶化方法の確立によって改善が期待される。また単糖であるD-マンノースを系中に導入し一次元鎖錯体を合成することで既報の一次元鎖と異なる転移挙動を示す新規錯体を構築した。この錯体はPXRD測定結果から既報の一次元鎖錯体と異なる結晶系を有し、元素分析およびICP発光分光法の測定結果から[CoFe(tp)((R)-pabn)(CN)_3]BF_4・2H_2O(tp=tris-(pyrazolyl)borohydride, (R)-pabn=(R)-N2, N2'-bis (pyridin-2-ylmethyl)-1, 1'-binaphtyl-2, 2'-diamine)の組成を持つと考えられる。この新規錯体の転移挙動について調べるため温度依存磁化率測定を行った。測定結果から250Kにおいて熱誘起ETCST挙動を示し、60Kの広い熱的ヒステリシスを観測した。また低温において光照射することで光誘起ETCST挙動を観測し、超常磁性相の存在を示唆した。既報の一次元鎖錯体に比べ簡易に取り扱え真空条件下で安定なことから多様な物理条件下での測定が可能であると期待できる。
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