冗長大自由度を有する筋骨格系の制御を簡略化するための戦略として,幾つかの筋をまとめて支配するための神経制御機構である筋シナジーという概念が提唱されてきた.しかし,その存在は未だ概念であるという問題点がある.そこで申請者は,生体内における筋シナジーの神経制御メカニズムを明らかにすることを目的として研究を行ってきた. 昨年度はまず,個々の筋シナジーの活動によって終端位置でどのような力が生成されるのかを生理学実験を通して明らかにした.下肢での等尺性力発揮課題中に取得された筋電図より解析的に推定された個々の筋シナジーの活動度と,測定された3次元空間における力変動との相互相関関係から,個々の筋シナジーの力ベクトルを定量した.この結果から,上位中枢は個々の筋シナジーの力ベクトルを組み合わせて,少ない筋シナジーで広範囲の力発揮を可能にしていることが示唆された.この結果は,国際誌Frontiers in Bioengineering and Biotechnologyに採択された. また,申請者は神経回路モデルを用いて,新しい運動を習得する際の筋シナジーがある場合とない場合の運動学習パフォーマンスの比較を行った.その結果,筋シナジーがあるモデルは,筋シナジーのないモデルに比べて学習速度が向上するという結果が示された.ヒトの筋骨格系は主に二関節筋の存在により構造上の偏りが存在するが,筋シナジーがその偏りを軽減させるようにして神経回路内に構築されたことにより,多方向への運動学習速度が向上したことが示唆された.この結果とこれまでの学術論文が総合的に評価され,国際バイオメカニクス学会でEmerging Scientist Awardを受賞した.さらに,日本体育学会においてもこの研究が評価され,若手研究奨励賞を受賞した. 最後に,申請者のこれまでの研究業績が高く評価され,京都大学総長賞が授与された.
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