研究概要 |
「研究の目的」に記した時間表現と文末のテンスやアスペクトとの共起関係のの理論的分析を進めた。まず、昨年度発表した論文と、現在執筆中の論文を通して、指示詞の時間表現の記述的な分析と理論的な考察を行った。具体的な状況を述べると、現在に至るまで、指示詞{demnstrative)に関する数多くの研究が世界中でなされてきており、言語類型論の観点からの考察も盛んになってきている(Lyons 1977, Levinson l983, Diesse ll999, Lenz (ed.)2003, etc.)。日本語の指示詞コソアについても、その現場指示や文脈指示などの用法に関して従来から様々な研究がなされてきており、指示詞の記述・理論的な分析における重要な研究が数多く存在する(佐久間1951、三上1970、久野1973、黒田1979、金水・田窪1992など)。しかし、「この頃、このところ、そのうち、あの時」といった時間表現における指示詞については、まとまった考察がなされてきていない。その考察を、上記の執筆中論文にて行いたいと考えております。 また、指示詞の時間表現の分析に加えて、他の時間副詞と文末のテンスやアスペクトの共起関係にまで考察対象を広げている。具体的には、中村(2001)で主張されている「時点+二格」は南の階層におけるA類要素であるという主張を批判し、元来南(1974}にて主張されていたとおりB類要素であることを指摘している。その結果、南の階層の観点から「時点+二格」と情報構造の関係を説明することは不可能であることを示し、統語構造の階層ではなく、あくまで語レベルでの二格との共起制限が強いものとそうでないものが存在しており、共起制限が弱い語が、文脈情報の影響を強く受けるという、時間表現自体に内在する意味情報が二格との共起関係に決定的に重要な影響を与えると分析している。 このように、指示詞の時間表現の記述的・理論的な分析に加えて、時間表現一般と統語構造との関係についても考察し、研究の範囲を着実に広げてきている。
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