本年も指示詞の時間表現への理論言語学的な考察と、スペイン語と日本語の対象言語学的な研究、特に時間表現の対照研究に関する考察を進めた。 まず、昨年度から執筆を進めていた指示詞の時間表現に関する学術論文を完成した。「指示詞と時間―認知文法の観点から―」(『認知言語学論考13』 ひつじ書房.2015年度出版)のことである。具体的な内容は、昨年度もここに記したが、以下の通りである。現在に至るまで、指示詞 (demonstrative) に関する数多くの研究が世界中でなされてきており、言語類型論の観点からの考察も盛んになってきている。日本語の指示詞コソアについても、その現場指示や文脈指示などの用法に関して、記述的・理論的に重要な研究が数多く存在する。しかし、時間表現における指示詞については、まとまった考察がなされていない。その考察を、上記の論文にて認知言語学の観点から行った。 またスペイン語との対照研究に関するものとして、関西スペイン語学研究会から出版予定の『「スペイン語記述文法」章別和文要約』内の担当項目を完成した(2016年3月出版予定)。担当した論文は、第67章の「形態統語論」に関する論文である。ここでは、スペイン語の名詞句や動詞句、さらにはイディオム表現などが、文レベルの構造と比較されながら分析されている。この内容は、西山 (2003)『日本語名詞句の意味論と語用論―指示的名詞句と非指示的名詞句』にて行われている日本語の名詞句構造と文構造の対応関係に関する考察と通ずるものである。そして、両論考共に時間表現に関する考察も行われている。私が要約を行ったスペイン語学の論文と西山 (2003) の内容を元に、日本語とスペイン語の時間表現の比較、更には時間表現と文構造の対応関係を対照言語学的に研究することが可能となると考える。この要約原稿作成を通して、その研究への基盤を作ることができたと考える。
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