研究概要 |
単分子磁石や単一次元鎖磁石といった「ナノ磁石」の構築において、一軸性磁気異方性(D)と同様に極めて重要なパラメータのひとつである交換相互作用定数(J)の制御を目指した研究を行った。二つのピリジル基を持つ架橋型アミノキシルNOpy_2を有機スピン源とし、またDをほとんど持たないβ-ジケトナト型二価銅錯体Cu(L)_2 (L=tfac ; trifluoroacetylacetone, hfac ; hexafluoroacetylacetone, or dfhd ; decafiuoroheptanedione)を金属スピン源としたヘテロスピン錯体の構築に成功した。単結晶X線構造解析を行った結果、Cu (L)_2のtrans方向にNOpy_2のピリジン窒素が二つそれぞれ配位子し、オクタヘドラル構造を連結した一次元鎖構造をとっていることが分かった。Cu-N_<Nopy2>の結合長r(Å)はtfac, hfac, dfhdの順に2.40>2.14>2.02となっておりβ-ジケトナト型配位子Lの持つ電子吸引性フッ素置換基の数との相関がみられた。そこでSUID磁束計を用いた直流磁化率の温度依存性測定を行い、Heisenberg一次元鎖モデルを適用してフィッティングをすることで3d-2p間交換相互作用定数(J)を算出した。J(K)はtfac, hfac, dfhdの順に5.7<32<55という結果が得られCu-N_<NOpy2>の結合長r(Å)に依存することが明らかとなった。この結果は反磁性配位子であるLの修飾によってヘテロスピン分子磁性体の構築に極めて重要なJを簡便に制御できたことを意味している。 また一方で光照射により三重項カルベンを発生させるジアゾ基を用いることで光応答型4f-2pヘテロスピン錯体の構築を目指した。ランタノイド錯体は非常に大きな磁気異方性をもち、さらに高いスピン状態(最大でS=7/2)をとることが可能であるため近年分子磁性体の構成素子として非常に高い関心を集めている。β-ジケトナト型Dy^<III>錯体とジアゾ基を持つピリジンNオキシド配位子を組み合わせた場合にDy^<III>二核錯体(diazo : Dy^<III>=2:2)が得られたことを単結晶X線構造解析によって明らかとした。
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