研究課題/領域番号 |
13J00282
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
藤井 あゆみ 京都大学, 大学院人間・環境学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | カール・アブラハム / メランコリー / 欲動 / 対象 |
研究概要 |
ジークムント・フロイトの直弟子カール・アブラハムの理論の読解にこの一年間励んできた。その綿密な読解によりメランコリーと対象愛の関係性を明らかにし、メランコリー患者の対象愛が幼児期のサディズム的段階に退行するというアブラハムの主張の重要性を確認した。この主張はフロイトの性理論およびメランコリー論を先鋭化し、発展させたものだと言える。このことに関しては一つの論考にまとめ上げ、雑誌『文明構造論』第9号に「欲動の対象とメランコリー」というタイトルで投稿した。これは精神分析の専門家だけでなく、思想史またはドイツ文学の専門家から評価を得ている。また、アブラハムの理論の読解をさらに進めると、アブラハムの欲動論でフロイトとは違い、対象が重視されるようになっていることに気づいた。そしてそのきっかけとなっているのがメランコリー研究であることを確認した。アブラハムはフロイトの論をさらに発展させ、リビードの退行先が対象愛とナルシシズムのあいだの段階(対象敵対的段階・食人期)に退行するということを明らかにした。すなわち彼は、リビードとともに対象愛も発達していくものであると考え、それらの発達段階をつまびらかにし、対象関係を俎上に載せたのである。このような「欲動の対象」に重きを置く理論は、後の対象関係論学派の礎となっている。 今年3月には、カール・アブラハム・インスティトゥートを訪れ、アブラハムの資料を収集した。とりわけアブラハムの肉声の入ったCD-ROMは貴重な一次資料である。現在、収集した資料の解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請時の年次計画1年目には、メランコリーの概念史研究を古代から中世までの医学を中心とした分野において進め、日本精神医学史学会にて発表することを目指していたが、大枠の概念史よりも先に精神分析理論の内容面を深めることのほうが重要であると考え、申請時には2年目の年次計画の課題のアブラハムのメランコリー論の研究を深めることができたので、おおむね順調だと言える。
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今後の研究の推進方策 |
アブラハムのメランコリー論を中心にこれまで研究を進め、その成果を上げてきたが、今後はその理論の背景を探るべく、アブラハムの伝記的研究に従事する。また、彼が臨床の現場でいかなる実践を積んできたかを明らかにし、メランコリー論にいかなる影響を与えたかを探る。 さらにアブラハムに訓練分析を受けていたクラインのメランコリー論を精査し、アブラハムの理論との比較検討を行う。これまですでにフロイトやハンガリーの精神分析家ラドー、日本の精神科医丸井のメランコリー論を比較検討し、学術誌に発表してきたが、これらをさらにアブラハムとクラインの理論と突き合わせて再検討する。
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