研究課題/領域番号 |
13J00289
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中谷 和人 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2013-04-26 – 2016-03-31
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キーワード | ドローイング / 地図作成法 / 脱施設化 / 生政治 / 知的障害 / デンマーク |
研究実績の概要 |
本年度はとくに「ドローイング(線を引く・描くこと)」という概念/事象を鍵にして(1)理論と(2)フィールドワークの両面で研究を深化させることができた。 (1)Tim Ingoldの「線(lines)」の人類学に示唆を受けつつ、その背景にある哲学と芸術思想についての文献を渉猟し理解を深めた。これにより、現実を外延的な形式のもとで模倣(表象)しようとする「複写」としてのそれではなく、その進展プロセス自体が現実を内在的に構成していく「地図作成法」としてのドローイングという重要な視点を得た。さらにこの両者のあいだの緊張関係――重なり合い、反転、移行――そのものを「政治」の焦点と位置づけることで、障害者の「生」に関わる今日の政治を批判的観点から分析する途が開かれた。 (2)デンマークの二つの障害者美術学校で計2週間のフィールド調査を行ない、ドローイング制作と制作者の生活史に関する資料収集と分析を行なった。その結果、「線描に描く」という行為が単に頭の中のイメージを紙上に再現するものではなく、さまざまなモノや他者とともに行なわれる「道探索(wayfinding)」の実践、さらには描かれる当のなにかを「所有する」やり方として成立しているという洞察が得られた。さらにそのような意味でのドローイング行為を通して描かれる制作者のいわば「線の一生」が、歴史的・制度的にはこれまで当分野で進められてきた「脱施設化」の動向を背景に成立しつつも、そこで支配的な「主体」や「自己」の論理を漏出していく美学的=政治的=倫理学的なポテンシャルを秘めていることも明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「ドローイング」というあらたな視点を導入することで、本研究テーマをより広く生政治学的な議論へと拡張することが可能になった。またその成果を国内の先端的な研究会で発表することを通じてさらに綿密化することができ、論文執筆のための準備ができた。
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今後の研究の推進方策 |
ここでいう「ドローイング」ないし「地図作成法」という視点は、現地の芸術実践について説明する単なる分析概念ではなく、われわれの世界認識そのものの基盤として位置づけられうる。この視点を人類学的方法としてさらに鍛え上げることにより、従来の「芸術についての人類学(Anthropology of art)」をこえて、芸術と人類学のより相互構成的な関係――Ingoldのいう「芸術とともに歩む人類学(Anthropology with art)」――の構築をめざす。
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