本研究の目的は主に以下の2点に要約できる。A)、従来、社会運動思想のフェミニズムが文学批評といかに関係づけ語られてきたかについて、1980年代転換期を起点として、日中という二つの受容空間で考察したい。B)、日中フェミニズム批評比較という新天地を開拓しながら、90年代末期から提起され、いまだに解決されていない「フェミニズムの行き詰まり」という課題を再考するための方法的視座を示すことを目指す。平成26年度の作業はこれまでの口頭発表および研究ノートを整理し、博士論文の構造をより明確にすることに重心を置きながら、「女性史の読み直し」と「テキストの批評的な分析」という二つの研究項目を中心に研究を進めてきた。具体的に述べると、以下の通りである。
1、女性史の読み直しについて 申請者は、研究発表「Feminism からフェミニズムへ ―日本型フェミニズム批評の再考―」と研究発表「上野千鶴子『家父長制と資本制』を読む―資本主義社会はなぜ女性を解放しなかったのか―」で得られた研究成果を生かして、研究ノート「李小江の初期女性学の試みを再考する―上野千鶴子との比較を手掛かりに―」において、同時代の日中女性学研究者の理論的な試みを比較する方法論を模索した。 2、テキスト分析について 申請者は、論文「越境する『蛇にピアス』・ファルス不在の快楽―日中若手作家作品比較を通して―」(『名古屋大学国語国文学』名古屋大学出版社2014年107号)、論文「身体を望ましき混沌として「書く」―金原ひとみ『マザーズ』における不機嫌な女たちをみる」(『Juncture超域的日本文化研究』第6号2015年)において、具体的な考察と実践を展開したのである。
|