多くの実環境中の微生物は集団であるバイオフィルムを形成して環境に応答、適応することによって生育している。グラム陽性偏性嫌気性芽胞形成性のウェルシュ菌は病原性を有しており、本菌は芽胞を形成するだけでなく、バイオフィルムを形成することによって種々のストレスに耐性を得ることが明らかとなった。私はこれまでに外界の温度に応答して、本菌のバイオフィルム形態が大きく変化することを見出した。本菌は、環境中の温度(25°C)では細胞外マトリクス(Extracellular polymeric substance; EPS)に富んだ膜状(ペリクル)の疎なバイオフィルムを形成する一方、宿主体内の温度(37°C)では基質表面への付着性を示す密なバイオフィルムを形成する。温度変化とは細菌が動物への感染が成立した際の環境変化と類似しており、ウェルシュ菌バイオフィルムの形態変化は本菌の病原性との深い関連が示唆される。 本年度は芽胞形成因子が温度依存的なバイオフィルムマトリクス産生や細胞の付着性を制御することを明らかとし、ここまでの成果をJournal of Bacteriologyに掲載した。つまり、ウェルシュ菌は複数のセンサーキナーゼによって外界の環境を認識し、バイオフィルム形成や胞子形成を制御することが示唆される。以上の成果は日本農芸化学会関東支部会2014年度大会にて口頭発表にて報告を行い、口頭発表優秀賞として評価された。
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