研究概要 |
本研究では, スズメガ科の性フェロモンによる種認識機構を明らかにすることを目的としており, 今年度は, 予定通りスズメガの性フェロモン同定を進めるとともに, うち一種については, その性フェロモンの生合成機構について研究した。 1. スズメガの性フェロモンの同定 スズメガ科の性フェロモンの多様性を明らかにするため, これまでに研究対象としていた15種に加え, 新たに2種のフェロモン同定に着手した。いずれの種もこれまでに報告者が同定している種と同様にボンビカール((10E,12Z)-10,12-hexadecadienal)系列の性フェロモンを使用していることを突き止めた。 また, スズメガ科の一種である, サザナミスズメ(Dolbina tancrei)からは新規性フェロモン化合物である(9E,11Z)-9,11-pentadecadienal)を同定した(Uehara et al. 2013)。 2. 性フェロモン生合成経路の解析 サザナミスズメの新規フェロモンは奇数炭素鎖を持ち, 他種では確認されていない化合物である。また, これまでの研究で分かっているスズメガのフェロモンよりも炭素鎖が一分子だけ少ないという特徴を持つ。このことは, 本種が他の虫とは異なる性フェロモンの生合成経路を採用する可能性を示している。 そこで, 本種性フェロモンの特異性が生じる機構を探るため, サザナミスズメの性フェロモン分泌腺中の性フェロモン前駆体を調査し, 前駆体の構成から性フェロモンの生合成経路を推定した。また, 同位体標識脂肪酸を用いて推定生合成経路を確認した。その結果, カイコ等と同様に本種の特異的な性フェロモンは, 炭素数16のパルミチン酸から生合成されることが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究でサザナミスズメの性フェロモン生合成の独自性は, 脂肪酸の炭素分子を1分子だけ短縮するところにあると示された。そこで, 今後は, この炭素一分子短縮に関わる遺伝子の同定を主軸に進めていく予定である。 しかし, フェロモン生合成に関わる当該遺伝子は未だ報告が無いため, 次世代シーケンサーを用いた解析を検耐している。
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