研究課題/領域番号 |
13J00357
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
吉澤 恵子 筑波大学, 大学院数理物質科学研究科, 特別研究員(DC2)
|
キーワード | 医療用接着材 / 疎水化 / ゼラチン / フィルム / 多孔体 |
研究概要 |
本研究の目的は、湿潤環境下で高い接着力を示し、組織再生用の足場となるような、生体親和性の高いフィルム状接着剤を創製することである。そこで、疎水基を導入したブタアルカリ処理ゼラチン(AlGltn)を主材としてフィルムを作製し、in vitroでの組織接着強度やin vivoでの組織再生性への検討を進めた。 まず、鎖長の異なる疎水基(Hexanoyl (Hk : C_6)基、Deanoyl (Dec : C_<10>)基、Stearyl (Ste : C_<18>)基)をそれぞれAlGltn中のアミノ基全量に対して約10、30、40%導入した疎水化ゼラチンを用意した。 各疎水化ゼラチンを基に、架橋をしていないフラットフィルムと熱架橋フラットフィルムを作製し、組織接着強度に対する導入疎水基の鎖長と導入率の最適化を行った。その結果、未架橋と熱架橋の両条件において、鎖長の短いHx基を多く導入したAlGltnフィルム(HxAlGltn)が組織表面に最も強固に接着し、剥離界面にフィルムが多く残存することが明らかとなった。更に、組織内に多く存在する繊維芽細胞を熱架橋フィルム表面に播種し、細胞の初期接着形態を比較すると、HxAlGltn表面で最も細胞伸展性が高かつた。 HxAlGltnを均一孔径(φ250-500μm)の多孔フィルムにした際も、疎水化していないAlGltn多孔膜と比較して組織接着強度が約三倍と高く、無血清条件における繊維芽細胞の増殖性や24時間培養後の細胞伸展性に優れる様子が観察された。更に、HxAlGltn多孔フィルムをラット皮下に埋入して、フィルムの生分解性評価や膜周囲組織の免疫染色評価を行った結果、気孔率の高いHxAlGltn多孔フィルムは生分解性に優れ、高気孔率の膜周囲組織にはvon Willebrand FactorやCD34などの血管新生因子が早期に多く発現していることが明らかとなり、組織再生能力に優れる可能性を示唆していた。 以上の結果は、HxAlGlmにより調製した多孔フィルムが、体内などの湿潤環境下においても強い接着性を示し、かつ組織再生能にも優れるものとして応用が期待できることを示している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ほぼ申請当初の予定通りに実験は進んでおり、導入疎水基の鎖長の検討や、フィルムの架橋による強度の検討などを行ってきた。更に、in Vitroによるフィルムに対する組織接着性や細胞応答の検討や、in vivoにおけるフィルムの生分解性、血管新生誘導性などの生体親和性等について、フィルム構造の違い(フラット、多孔体)よっても明らかになってきた。また、国内外における成果の発表という目標も達成できているため、研究の目的については②のようにおおむね順調に進展していると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
本報告までに接着に最適な鎖長の検討、最適な導入率の検討、最適条件フィルムに対する細胞の初期応答性やin vivoでの生分解性の検討を行ってきた。現在はフィルム構造の最適化を進めているが、多孔構造の気孔率と気孔径の最適化のうち、気孔率の検討までを行うことができたため、今後は引き続きフィルム気孔径の最適化を行う。すでに、接着強度の高い疎水基1種類を用いた疎水化ゼラチン多孔膜による組織再生誘導について検討を進めてきたが、鎖長の違いにより、組織再生誘導性が異なる可能性が出てきた。したがって、今年度は、気孔径に加え、疎水基鎖長が組織再生能に及ぼす影響に対しても検討を進めていくことも予定している。
|