研究課題/領域番号 |
13J00423
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
坪子 理美 東京大学, 大学院理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | メダカ / 近交系 / 量的形質遺伝子座 / 行動遺伝学 / コンジェニック系統 |
研究概要 |
前年までの研究においては、2つのメダカ近交系(A、Bとする)の間で、視覚刺激に対する驚愕反応特性(刺激に対する敏感さ、連続刺激への慣れにくさ)に差異があることを発見していた。更に、連続刺激への慣れにくさに関わる量的形質遺伝子座(QTL)が、特定の染色体上にあることを示していた。当該年度における成果は以下の通りである。 1、コンジェニック系統の作成 : 同定したQTLの範囲を更に絞り込むため、ゲノムのほぼ全体がA系統に由来する塩基配列でありながら、QTL内の一定領域のみがB系統の塩基配列に置換された系統(コンジェニック系統)を複数作成した。今後、コンジェニック系統間で連続刺激への慣れにくさを比較するとともに、遺伝子組み換え・ゲノム編集による行動変化を確認することで、驚愕反応特性に関わる遺伝的要因の同定を目指す。 2、同一水域に由来する系統間の行動比較 : B系統と同じ野生集団に由来する別の近交系、C系統は、B系統と異なる驚愕反応特性を示した。このことから、同じ水域に生息するメダカ集団内に、遺伝的背景の差異に基づく行動多様性が存在する可能性が示唆された。 3、中間型の形質を示す近交系の発見 : 新たな近交系、D系統の反応特性を定量化したところ、A、B系統の中間の形質を示すことが分かった。近交系は、全てのアリルがホモ接合の状態で維持されているため、連続刺激への慣れにくさに関わる遺伝子座には、A型、B型、D型の3種類のアリルが存在する可能性がある。 これらの成果は、長年、齧歯類での研究が主であった行動遺伝学分野において、メダカが新たなモデルになる可能性を提示すると共に、野生のメダカ集団の遺伝的・行動的多様性を示唆し、生態学的にも意義がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画していたコンジェニック系統の樹立に成功したほか、これまでに行動特性の定量化を行っていなかった近交系、予備実験のみしか行っていなかった近交系についても実験を行い、その結果から遺伝学的・生態学的な示唆を得ることができたため。
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今後の研究の推進方策 |
《推進方策》コンジェニック系統間での行動比較を行うほか、近年、新規に確立されたゲノム改変技術を用いることで、責任遺伝子の同定を効率的に進めていく。 《問題点と対応策》コンジェニック系統を作成するための戻し交配の過程において、得られる子の雌雄比が偏り(オスが多く、メスが少なかった)、交配に適した子が見つかりにくく、系統樹立までの期間が予定より長くかかった。今後、コンジェニック系統の維持の上でも同様の問題が起きる可能性があるため、予備の系統を複数維持し、一世代当たりのメス個体を充分数確保する。
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