平成27年度、形容詞の意味構造や意味形成に関わる一般的プロセスとその文化・言語的多様性に関する理論的・実証的研究を行った。特に、前年度までで明らかにしたスケール構造分析を基にし、形容詞によって表現される価値判断(評価性やスケール判断とも言われる、事物に値を付与する心的行為)について認知的・心理学的な研究を行った。 まず、価値判断の一般的処理過程について研究を行った。良い/悪い、大きい/小さい、新しい/古い等のように価値判断は形容詞で表現される事に注目し、形容詞の意味分析を軸に価値判断の心的内実を明らかにした。実際に、価値判断を分解・再構築を行い価値判断の心的過程をモデル化した。まず、価値判断を構成し影響を与える要素を明確化した。これによりどのような要素が働いて形容詞ないし価値判断の主観性に関わるかが明らかになった。次に、それらの要素は互いに密接な関係がある為、その相互関係を明らかにした。それによって、互いに競合する要素、連動・対応する要素、因果関係がある要素等が明確となり、価値判断の内部構造が一層明らかになった。最後に、価値判断の基礎的な処理過程と発展的な処理過程に分けて各々明らかにした。基礎的な処理過程が明確化する事で、どのような認知能力(抽象化や視点の投影など)が関連し、価値判断を高度化させるのかが明らかになった。 次に、以上の分析を基盤に日米文化・日英語の対照研究を行った。特に、判断基準、基準値、比較対象という要素に焦点を当てて、それらに関わる心理実験を作成しそれぞれの国の被験者に対して行った。結果的に、日本人はアメリカ人と比較して、概念主体の個人的な経験が喚起される場合、その影響を受けやすい事が示された。以上のように、価値判断や形容詞の使用は、文化・言語によって根本的に異なり多様性があり、他言語習得における障害やミスコミュニケーションの原因となっていると考えられる。
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