研究課題
レーザーは狭い線幅を有するため、高分解能光電子分光用の光源としてその有用性を示してきたが、これまでの最高励起エネルギーが7 eVと放射光に比べて圧倒的に低かったために、銅酸化物や鉄系等の非従来型超伝導体における第一ブリルアンゾーン全体の測定が不可能であった。鉄系超伝導体ではBZの中心と境界に形成されるフェルミポケット同士の相互関係が超伝導の発現に大きく寄与することが理論的に予想されており、銅酸化物超伝導体ではBZ境界近傍でTc以上の高温から発現する擬ギャップ状態が超伝導発現機構を解明する上での重要な鍵を握ることが認知されているため、本研究課題で新たに励起エネルギー8 eVを有する高分解能レーザーを開発し、上記のフェルミ面における超伝導ギャップ測定が可能となった。この装置を立ち上げる過程で真空紫外レーザーのビームラインを構築し、極低温高分解能光電子分光装置と接続したが、途中に紫外領域用の波長板を追加し、自動回転できるチャンバーを取り入れたことで偏光依存性のデータも取ることが可能となった。鉄系超伝導体等のマルチバンド系では軌道成分を選り分けることが重要となるため、偏光可変性を得たことは他の光源にはない重要な進展となった。そして使用開始当初は高次高調波発生部分において出力の不安定性が見られたが、非線形光学結晶の品質向上および温度調節機構の大幅な改良により、物性実験を行う上で十分な安定性(2日以上安定した連続実験が可能)を得た。この光電子分光装置は、従来の放射光では到達できない最低温度1K、最高分解能約1.5meV、中心波長安定、高強度、等の性能をもち、非従来型超伝導体の超伝導状態を精査する手段として世界に類を見ない物となった。
2: おおむね順調に進展している
当該年度において狭線幅高繰り返し8eVファイバーレーザーの開発を行い、超高分解能光電子分光装置へのビームラインを完成させた。これにより、鉄系超伝導体や銅酸化物超伝導体において第一ブリルアンゾーン全域にわたって超伝導ギャップを高分解能測定可能な装置が出来上がった。これは最低温度やエネルギー分解能、フェルミ準位の測定精度という点で世界でも類を見ない物であり、当該年度の目標を達成した。
鉄系超伝導体Ba_<1-x>K_xFe_2As_2系のうち特にKオーバードープ領域(x=0.6-1.0)は超伝導転移温度が3K-15Kと低く、分解能や到達最低温度の点で放射光では超伝導ギャップの精査が困難であったため、今まで7eV励起のレーザーによる光電子分光によって超伝導ギャップ異方性が調べられてきた。7eV励起の場合、ブリルアンゾーンの中心付近にいる3枚のホールフェルミ面において超伝導ギャップを精査することが可能であるが、励起エネルギーが足りないためにブリルアンゾーンコーナーにあるクローバー型フェルミ面の測定が出来なかった。非弾性中性子散乱ではブリルアンゾーン中心とコーナーを結ぶ波数にスピン揺らぎが観測されているため、スピン揺らぎが超伝導発現に起因するかどうかを調べることで、この系の超伝導状態を理解できることが期待される。そこで実用化した8eV励起レーザーを用いた光電子分光を行い、Ba_<1-x>K_xFe_2As_2のブリルアンゾーンコーナーにあるクローバーポケットでの超伝導ギャップを精査し、スピン揺らぎと超伝導の関係を明らかにする。
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