研究課題
本研究では、創薬応用可能な肝細胞をヒトES/iPS細胞から作出することを目的としている。これまでに若い継代数に限るが、iPS細胞には元の由来細胞の情報がエピジェネティックな形で「記憶」されており、特定の組織細胞から樹立したヒトiPS細胞は同一組織細胞への分化指向性が高いことが示唆されている。そこで、我々は山中4因子搭載センダイウイルスベクターを用いてヒト初代培養凍結肝細胞(PHH)からiPS細胞を樹立することを試みた。山中4因子をPHHに遺伝子導入することにより得られた細胞は、典型的なヒトES/iPS細胞様の形態を示し、アルカリフォスファターゼ陽性であった。PHHから作製したiPS細胞(iHC-1細胞)におけるOCT4、NANOG、SOX2の遺伝子・タンパク発現を定量的RT-PCR法・免疫抗体染色により評価した結果、いずれの遺伝子・タンパク質の発現も観察された。また、iHC-1細胞は三胚葉に分化可能であることをEB形成法ならびにテラトーマ形成法により確認した。次に、PHH-iPS細胞の肝分化能をヒトES細胞や肝細胞以外の組織細胞から樹立されたヒトiPS細胞と比較した。iHC-1細胞由来の分化誘導肝細胞における肝マーカー遺伝子の発現およびALB産生量は、ヒトES細胞KhES3およびヒトiPS細胞Toe由来の分化誘導肝細胞と比較して有意に高かった。またPHH-iPS細胞(iHC-1細胞)由来分化誘導肝細胞におけるCYP3A4、CYP1A2の薬物代謝活性を評価した結果、ヒトES細胞(KhES3)由来分化誘導肝細胞およびヒトiPS細胞(Toe)由来分化誘導肝細胞と比較して有意に高かった。以上の結果から、PHH-iPS細胞から作製した分化誘導肝細胞は、ヒトES細胞および肝臓以外の組織由来ips細胞から作製した分化誘導肝細胞よりも高いCYP代謝能を有することが示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究では、創薬応用可能な高い肝機能を有するヒトES/iPS細胞由来肝細胞を作製するために、ヒト初代培養肝細胞からiPS細胞を樹立した。ヒト初代培養肝細胞から樹立したiPS細胞はヒトES細胞や肝細胞以外の組織細胞から樹立されたiPS細胞と比較して、高い肝分化能を有していることが確認された。本研究成果により、従来よりも高い肝機能を有するヒトES/iPS細胞由来肝細胞が作製できた。本年度は、4報の学術論文を発表し、5回の学会発表を行った。以上のことから、本研究は当初の計画以上に進展していると判断した。
今後は、さらに肝機能の高いヒトES/iPS細胞由来肝細胞を作製するために、肝細胞分化誘導技術の改良に取り組む予定である。具体的には、三次元培養や共培養を実施する予定である。また、特定の薬物代謝酵素の発現が高いヒト初代培養肝細胞からヒトiPS細胞を樹立し、分化誘導肝細胞を作製することで、特定の薬物代謝酵素が高い分化誘導肝細胞を作製できるか調べる。
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