クガビル属(Orobdella)については,日本国内における採集された標本の形態観察,ならびに核とミトコンドリア遺伝子の複数マーカーを使用した分子系統解析によって,本州中部域に生息するクガビル類が未記載種であることが確定し,これを新種として記載した.記載した種は体サイズが4 cm以下であり,分子系統解析の結果,体サイズの大小はクガビル属内で並行的に進化してきたことを明らかにした.この小型クガビルは大型のクガビルと同所的に生息していることから,性成熟サイズの大小が,同属他種の同所的分布を成立させている可能性を指摘した.くわえて,生殖器官の発達度合いと,消化器系の一器官である胃通管の発達度合いに関連が見られた.性成熟している個体では胃通管も十分に発達した球根状の形質状態を示すが,未成熟個体の標本では,胃通管も未発達で単純な管状の形質状態を示していた.このことから胃通管は,生殖器官としての機能を有している可能性が高いことが明らかになった. イシビル形亜目のナガレビル科には胃の末端に側盲嚢(後胃側盲嚢)を有している種と有していない種が存在する.ベトナムで採集したナガレビル類は,形態こそ後胃側盲嚢を有する東アジアに分布する分類群の形態形質に類似していたが,後胃側盲嚢を有していなかった.分子系統解析の結果,ベトナムの種はアフリカに分布する,後胃側盲嚢を有していない分類群と姉妹群となることが明らかになった.このことより,ナガレビル科における後胃側盲嚢の有無は,系統関係を反映したものである可能性が強まった.さらにこの研究では,ナガレビル科においてアジア・アフリカ系統の存在を初めて分子系統解析の結果から明らかにし,くわえてベトナムの標本が未記載種であったことから新種記載を含む論文にまとめて,現在国際学術雑誌に投稿中である.
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