金属合金の固液共存体に変形が加わると、せん断に対する不安定性により、欠陥の一つである偏析が形成されることがある。当該研究者はこれまで、その変形・偏析形成メカニズム解明のため、変形過程における固相間の再配列に着目し、その場観察結果に基づいた変形の物理モデル化を行ってきた。さらにそのモデルを用いたプログラムの作成、単純な数値計算を行うことで、モデルに内在するせん断に対する不安定性を確認した。本年度はさらに広域への計算の適用を可能にするため、支配方程式のうち固相率に対して非線形に値が変化する、固相のみかけ粘性による応力の項を、可能な限り陰的に取り扱う計算手法について検討を行った。次に、固液共存体の変形による偏析が形成される可能性のある鋳造プロセスとして遠心鋳造に注目し、遠心鋳造における重力と遠心力を模擬した系において本モデルを用いて数値計算を行うことで、固液共存体の変形と、遠心鋳造における偏析形成との関係を調べた。その結果、鋳型と共に回転する座標系から見た場合、重力の作用方向の時間変化に起因して、固相の鋳型に対する速度は時間とともに振動し、再配列を表す応力が生じることで局所的に固相率の低下した領域(偏析)が形成されることが明らかとなった。さらに、その振動の振幅は回転速度、すなわち本計算における重力の作用方向の変化速度が大きくなるほど抑えられ、結果として局所的な固相率の低下も抑えられることが明らかとなった。遠心鋳造における偏析形成のメカニズムについて、固液共存体の変形に着目した研究はこれまで皆無であり、本研究により得られた知見は鋳造プロセスにおける欠陥形成メカニズム解明に大きく寄与するものであるといえる。
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