先年までの研究により、ケイ素欠乏時に二次細胞壁合成に関わるNAC型転写因子であるOsSWNの発現が上昇しており、特にOsSWN3がイネ葉身で高い発現を示していることが判明していた。 NAC型転写因子の下流ではMYB型転写因子が機能し、二次細胞壁合成に関わる遺伝子の発現を制御することが知られている。それらがケイ素欠乏に応答するかどうかを解析したところ、いくつかのMYB型転写遺伝子、特にOsMYB58がケイ素欠乏条件で発現量が上昇していた。これらのことから、ケイ素欠乏条件における二次細胞壁合成もNAC型転写因子、MYB型転写因子による制御を受けており、また、これらの転写因子群が環境中のケイ素量に応答していることが示唆された。 植物にとってケイ素の有益な効果のひとつに、マンガン過剰害を緩和するというものがある。マンガン過剰害に対する応答を解析したところ、ケイ素欠乏条件では葉身へのマンガンの蓄積量が顕著に増加しており、マンガン輸送体であるOsNramp5の発現量が上昇していたことが分かった。一方で、ケイ素欠乏条件ではマンガン過剰害が出る蓄積量と同程度の蓄積量でも、ケイ素充分条件ではマンガン過剰害が出ていなかった。OsPALの発現量を調べたところ、水耕液中のマンガン濃度が上昇するのに従って発現量も上昇し、さらにケイ素欠乏条件でより発現が高いことが分かった。また、金属ストレス応答において重要な役割を示すペルオキシダーゼについても解析したところ、ケイ素充分条件でのみ、水耕液中のマンガン濃度に応じた発現上昇を示した。これらのことから、ケイ素がマンガン過剰害を緩和する機構は、地上部への輸送を抑制することと、地上部で特定のペルオキシダーゼの発現を促進することの二段階からなっていると考えられる。また、二次細胞壁合成のみならず、金属輸送、ストレス応答などの様々な遺伝子がケイ素条件の変化に応答していることが示唆された。
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