研究実績の概要 |
本研究では,以下の2点を目的とする.第1に,先行研究から導かれた体系的な指標を用いて,両国における市場化の影響について介護保険機関を対象とした実証研究によって比較検討し,福祉の市場化がもつ課題について考察する.第2に,それらの点を踏まえて特に福祉の市場化の観点から,両国における望ましい高齢者の介護政策のあり方を提示することが目的である.日本,韓国の先行研究では,市場化の影響を検討する理論的研究は蓄積されてきているが,市場化の影響を多面的な側面から評価した研究は限られており,とりわけ影響を把握するための実証研究が不足している点や国際比較研究が不足している点が指摘できる(崔 2013). 質的調査の結果を普遍化するために量的調査も実施する.分析枠組みに従い両国(N=800)で自記式質問紙調査を行った.その結果,両国は介護保険制度に準市場を導入したことにより両国において最優先課題であったインフラの構築は,多数の機関が参入することにより達成された.福祉の市場化が進展する場合であっても,民間が供給するサービスへの規制強化や内容改善等によって,効率性,応答性,選択性,公平性,サービスの質が担保される制度として位置づけられるように,制度のさらなる改善が必要であると考えられる. 本研究の特徴的な点は,二国間の国際比較を行うため,先行研究から導かれた統一的な比較基準を用いて,それに基づいた評価方法により実証的な研究方法を2種類採用したことであり,一定の意義があり独創性もあると考えられる. 本研究により予想される知見としては,実証研究により両国における市場化の影響が介護保険機関の視点から明らかになり,現場の実状や制度改善の必要性が明らかになる.また,市場メカニズム導入による肯定的な影響や否定的な影響が明らかになることで,福祉の市場化の今後の動向を含めた高齢者介護保険制度のあり方が展望される.
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