研究実績の概要 |
棘皮動物プルテウス幼生の進化は、骨に支えられて長く伸びた幼生腕であるプルテウス腕の獲得と言い換えられる。ウニにおいてプルテウス腕形成に関わる遺伝子(fgfA/fgfr2, vegf/vegfr, otp pax2/5/8, pea3, wnt5, tetraspanin:以下プルテウス腕遺伝子)に着目し、ウニ以外の棘皮動物幼生に置いて発現パターンを観察することにより、どのような変化がプルテウス腕獲得に必要であったかを特定することを目指した。 昨年度までに、クモヒトデ、ナマコ及びイトマキヒトデの幼生期におけるプルテウス腕遺伝子の発現パターンを解析している。ウニ・クモヒトデ・ナマコにおいて、多くのプルテウス腕遺伝子が、プルテウス腕もしくは位置的に対応する領域に発現するのに対し、ヒトデにおいてはそのような発現は見られなかった。今年度は、どのような発現パターンが祖先的であり、逆にどのような発現パターンが派生的であるのかを明らかにするため、棘皮動物の姉妹群半索動物のギボシムシの幼生に置けるこれらの遺伝子の発現パターンの解析を試みた。 幼生期におけるヒメギボシムシのpre-hatching stageにおける遺伝子発現パターンをin situ hybridizationにより解析した。 その結果、otpは繊毛帯領域及び胚後方外胚葉領域で、pax2/5/8は胚後方外胚葉領域で、pea3は胚前方の腹側領域と背側領域及び胚後方領域で、wnt5は胚後方の外胚葉領域で、tetraspanin はhydropore及び胚後方領域での発現が、それぞれ観察された。以上のように、今回観察したプルテウス腕遺伝子はいずれも胚後方領域で発現していた。この結果は、ナマコ・ウニ・クモヒトデに見られるような、プルテウス腕遺伝子群が類似した領域で発現するというパターンは、水腔動物の共通祖先の幼生において既に存在していた事を示唆する。
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