昨年度までに、クモヒトデ、ナマコ及びイトマキヒトデの幼生期におけるプルテウス腕遺伝子の発現パターンを解析している。この中でも、クモヒトデ幼生期にはこれまでに調べた全てのプルテウス腕遺伝子がウニと同様にプルテウス腕領域で発現していることが分かっていた。これらの遺伝子の制御関係として、ウニにおいてFGFシグナリング(fgfA/fgfr2)がpea3とpax2/5/8の発現に必要であることが分かっている。 そこで今年度は、発現パターンそのものの保存性のみならず、遺伝子発現の制御関係まで共通しているのかを確かめるため、FGFシグナリングの阻害剤として知られるSU5402で胚を処理し、pea3とpax2/5/8の発現がどのように変化するのかを検証した。 SU5402処理胚では、pea3の発現は消失し、pax2/5/8の発現も減衰することが明らかになった。このことから、発現パターンだけでなく、少なくとも一部の遺伝子間の制御関係もまたウニとクモヒトデで共通であることが示された。 以上の結果と、昨年度までの成果と合わせ、 (1)ウニとクモヒトデのプルテウス腕形成機構は保存されている、(2)ウニの棘形成時にも、プルテウス腕形成機構と類似したメカニズムが働いている、ということが明らかになった。これらの知見は、ウニとクモヒトデに見られる極めて類似したプルテウス腕は、共通祖先に存在していた成体骨片を形成・伸長させるメカニズムが幼生期にCo-Optionされたことにより獲得されたというシナリオを支持する。
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