研究課題/領域番号 |
13J00516
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
堀江 正樹 筑波大学, 医学医療系, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 酸化ストレス / 運動療法 / 骨格筋 / エネルギー代謝 |
研究実績の概要 |
人体に対する過剰な脂肪蓄積は、組織の構造や機能に異常をきたし、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)等の器官障害や、骨格筋の運動機能障害を引き起こす。運動療法は、NAFLDに代表する肥満関連疾患に対する最も重要かつ効果的な治療方法の1つであるため、肥満患者の運動能力の向上、骨格筋機能を維持する方法の確立が早急に求められている。申請者らは、酸化ストレスセンサーであるNF-E2 related factor 2(Nrf2)の、肝臓での脂肪蓄積・NAFLDの病変形成抑止効果に注目し、骨格筋においてもNrf2は同様の働きを持つのではないかと推察した。そこで、Nrf2が骨格筋の脂肪蓄積および機能に与える影響について検討する本研究を立案した。 本研究研究目的は、Nrf2の骨格筋機能に対する働き、特に骨格筋のエネルギー代謝機能への関与を明らかにする。さらには、Nrf2の賦活化が骨格筋エネルギー代謝機能及び運動機能向上を促進させ、NAFLDの発生と進展に対して有益な役割を演じることを明らかとする。 Nrf2欠損、過剰発現マウス(keap1 欠損)を用いて、Nrf2の骨格筋機能に対する働き、骨格筋のエネルギー代謝機能への関与を検討した結果、Nrf2KOマウスは、野生型に比べ運動耐用能の有意な低下を示し、さらに運動による脂肪肝の改善が認められなかった。また、より詳細にその分子メカニズムを解析するために、上記マウス由来の筋衛星細胞初代培養系の構築、細胞電気刺激と細胞伸展装置を用いて、筋細胞の運動状態をin vitoで再現する実験系を構築した。培養・筋衛星細胞を用いた検討では、電気刺激による筋管細胞の強制収縮は活性酸素種の産生を促し、Nrf2はその消去を主体とした細胞保護機能を有していることを証明した。さらに、筋管の収縮により分泌されるタンパク質にNrf2の活性化の有無が関与している知見を得た。今後はその詳細について解析を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
骨格筋内のNrf2を標的とした、非アルコール性肝疾患を含む肥満関連疾患に対する新たなる治療方法の確立を目的に、本研究課題に取り組んでいる。本研究は、近年、増加の一途にある肥満関連疾患の治療・予防方法への、新たなるアプローチを探索する研究であり、その社会的貢献度は極めて高い。前年度と本年度の研究では、野生型マウス、Nrf2KOマウスおよびNrf2過剰発現マウスの間で運動能力に差異があること。Nrf2KOマウスでは、他のマウスに比べ、運動による脂肪肝の改善効果が低いことを認めた。そして、その要因として、各マウス間での骨格筋分泌タンパク質の発現差異が関与している可能性を示している。さらに、培養細胞を用いた研究より、電気刺激による筋管細胞の強制収縮は活性酸素種の産生を促し、Nrf2はその消去を主体とした機能を有していることを証明した。さらに、細胞内での過剰なROS生成は、アポトーシスを誘導することが知られる。そこで、siNrf2群とコントロール群との間での、EPS後のアポトーシスマーカー発現比較を行った。その結果、初期アポトーシスマーカーであるAnnexinⅤの発現が、EPS刺激3時間後にsiNrf2群でコントロール群と比較して有意に高値であった。これらの結果より、C2C12筋管細胞の過度な収縮は、ミトコンドリアでの過剰なROS生成を引き起こし、Nrf2およびその下流遺伝子は、生成されたROSの消去に働くこと。そして、過剰なROS生成は筋管細胞のアポトーシスを誘導するが、Nrf2の活性化はROSの消去を行うことで、その反応に対して抑止的に働くことが示された。これらの結果は本研究の根幹をなすデータであり、今後の研究の発展を感じさせる成果であると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究より、in vivo解析では、Nrf2マウスでの運動能力の低下、運動による脂肪肝の改善程度の低下が認められた。in vitro解析では、C2C12筋管細胞の過度な収縮は、ミトコンドリアでの過剰なROS生成を引き起こし、Nrf2およびその下流遺伝子は、生成されたROSの消去に働くこと。そして、過剰なROS生成は筋管細胞のアポトーシスを誘導するが、Nrf2の活性化はROSの消去を行うことで、その反応に対して抑止的に働くことが示された。すなわち、Nrf2は骨格筋の過度な収縮に伴う酸化ストレスから、筋機能を維持するための組織保護的な役割を担っていることが示唆された。また、ミトコンドリアでの過剰なROS生成は、ミトコンドリア機能不全を引き起こすことから、Nrf2が運動時の骨格筋のミトコンドリア機能に対しても保護的な機能を有している可能性が推測できる。これは、in vivo 解析から得られた、Nrf2KOマウスでは運動での脂肪量の現象が認められない結果につながるデータではないかと考えている。そこで次年度では、Nrf2が骨格筋内でのミトコンドリア機能および、脂質・糖代謝機能に対する影響、マイオカインの産生に与える影響についての解析を行い、Nrf2を標的とした、肥満関連疾患の予防および、骨格筋機能を維持するための方法の確立を目指す。
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