運動能力の低下は、肥満に起因する疾患の発症、増悪の原因となる。そのため、これらの肥満関連疾患の治療・予防のために、骨格筋機能を維持するための方法の確立が早急に求められている。我々は、ストレスセンサーである転写因子NF-E2 related factor 2(Nrf2)に注目し、Nrf2が骨格筋の機能にどのような影響を与えるかについて検討した。 Nrf2KOマウスを用いたin vivo解析では、Nrf2KOマウスは野生型に比べ、運動能力(持久力)が有意に低く、また、継続的な運動による脂肪肝の改善程度も低いことが認められた。さらに、その要因の1つとして、骨格筋分泌タンパク質(マイオカイン)の発現差異が関与している可能性が示唆された。 さらに、Nrf2が運動能力に影響する分子メカニズムを明らかにするため、筋芽細胞株C2C12と細胞電気収縮装置を用いて解析した結果、C2C12筋管細胞の過度な収縮は、ミトコンドリアでの過剰なROS生成を引き起こし、Nrf2およびその下流遺伝子は、生成されたROSの消去に働くこと。そして、過剰なROS生成は筋管細胞の機能不全及び骨格筋のアポトーシスを誘導するが、Nrf2の活性化はROSの消去を行うことで、その反応に対して抑止的に働くことが示された。 以上、本研究は、Nrf2の欠損は、抗酸化ストレス機構の不全による、運動中の骨格筋のエネルギー代謝の破綻を引き起こし、逆に、Nrf2の活性化は、細胞機能保護作用の増加によって、骨格筋機能の維持・向上をもたらすことを明らかにした。すなわち、運動及び運動療法を行う上で、Nrf2が効率的な運動効果を得るための重要因子(遺伝子標的)であることを示唆した。
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