研究概要 |
本研究の目的は, 大きく不足している超高層大気下部の大気組成データを飛躍的に増大させる事, 系統的な理解が得られていない大気組成の分布・変動の基本過程を解明する事である. 今年度は, 新しく開発した波長可変ライダーによる複数大気組成をカバーした日本国内集中観測(定点観測)の第一段階として, K層とFe層の試験観測を実施し, 上空80-110kmからのK共鳴散乱光, 及びFe共鳴散乱光の受信に共に成功した. 現在は, 試験観測データの初期解析と本格的な観測実施に向けたシステムの最適化を並行的に進めている. システム最適化の一環として, 特に, 送信レーザー波長(周波数)制御システムの性能評価の為, ドップラーフリー飽和分光法を利用したレーザー周波数の誤差推定を行った. 推定された周波数誤差は1 MHz程度であり, 目標性能(10 MHz)を十分に達成していることを定量的に示した. 一方で, 過去データの収集・解析を進め, 特に, Na層の分布・変動に関して以下の研究成果を得た. i)Naライダー観測にEISCATレーダーによる電離圏観測を組み合わせ, 電離圏電場の影響を除いた上で, オーロラ降下粒子の影響のみを抽出して, Na層への影響を評価することにはじめて成功した. その結果, オーロラ降下粒子に呼応した有為なNa密度の減少を観測的に同定し, これまで不可解な状況が続いてきたオーロラ降下粒子が起こすNa密度変動について重要な新規知見をもたらした. ii)南極昭和基地で取得されたNaライダーの冬季3シーズン(2000-2002年)の観測データを解析し, 熱圏Na層イベントを発見した. 本イベントは, 極域の熱圏Na層として初めてのイベントであり, 高度130kmまでの大気重力波的な波状構造の見出や大気温度プロファイルの導出など有意義な成果が得られた.
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今後の研究の推進方策 |
今年度は, 特に, 波長可変ライダーを用いて複数大気組成をカバーした日本国内集中観測を実施し, 日本上空の超高層大気下部の大気組成データを飛躍的に増大させることを目指す. 並行して, 他地域データ(南極域, 北極域を含む)や人工衛星データ(Odin衛星のOSIRIS分光計データなど)の収集も進め, 系統的な理解が得られていない大気組成の分布・変動の基本過程について, よりグローバルな視点から明らかにしていく.
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