障害者の権利に関する条約が国内において批准され、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の施行を2016年4月に控えるなか、大学等の高等教育機関に在籍する障害学生に対する支援は過渡期を迎えている。法的整備を経て、今後、障害学生の修学に対する合理的配慮の提供、それに伴う支援体制の量的充実が見込まれるが、支援に関連する知見の蓄積には教育機関によって差があると言われ、支援現場の実態も明らかではない。従って、近年の支援体制拡充の過程において、現場ニーズとの乖離が起こることを懸念する。 上述した背景を踏まえ、本研究は、高等教育機関における聴覚障害学生支援の実態を明らかにし、その改善に資することを目的として、聴覚障害学生と支援学生、そして彼らを仲介するコーディネータ(主として高等教育機関内において障害学生支援に携わっている教職員)に対し、現場における支援の実施状況等を質問紙及びインタビューによって調査・分析する計画であった。 本年度は、昨年度までに実施した支援学生に対するインタビュー調査及び高等教育機関の教職員に対する支援の実施状況に関する質問紙調査をまとめた投稿論文が受理された。また、上述の研究から得た知見より、新たに聴覚障害学生に対する質問紙調査を構成した。具体的には、聴覚障害学生の聴力や教育歴や所属教育機関の性格、現在受けている支援形式等の内容によって、被支援時の心理的困難の様子が異なるのではないかという仮説であり、インタビュー調査によって取得された心理的困難を質問項目に採用することで、個人差を構成する要因の特定をねらった。調査は現在進行中である。また、聴覚障害学生が参加するグループワークにおいて、彼らの議事参加を可能にする環境の構築を、アクションリサーチの観点から検討した。これらの取り組みの状況等は記事にまとめ、インターネット上でアウトリーチとして発信した。
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