哺乳動物において排卵後に形成される黄体は、妊娠を成立・維持するために必須の内分泌器官である。申請者らはこれまで黄体形成過程が黄体内ステロイド合成細胞(LSC)の増殖と肥大から成ること、これらが細胞周期制御因子の制御を受けていること、さらにHippo signalが黄体の形成過程において重要な役割を果たす可能性および黄体機能を調節する可能性を示した。このHippo signalと黄体形成および黄体機能の関係を詳細に調べるために、分子生物学的な手法を駆使して検討を試みたが、初代培養細胞であるLSCへはコントロールベクターも含め、遺伝子導入条件は見出せなかった。このことに加え、in vitroの実験系では実際に生体内で起きる現象を明らかにすることが難しいため、マウスをモデルとして黄体形成とHippo signal の関連について明らかにすることを目的に本年度の研究を実施した。 生体を用いて特定の組織における遺伝子機能を明らかにするためには、部位特異的で効率的な遺伝子改変技術が重要である。最近、CRISPR/Cas9 system を用いて簡便に効率よく全身性の遺伝子改変動物の作出できることが報告されているが、CRISPR/Cas9 system を応用して部位特異的な遺伝子改変を行うためには看過できない問題点がある。すなわち、CRISPR/Cas9 systemの構成因子であるgRNAを部位特異的な発現に適したRNA polymerase(RNAP) II promoterで発現誘導することで機能消失してしまう点である。この問題点を解決するために自己切断能を持つリボザイムを活用し、RNAP II promoterを用いても機能的なgRNAを発現させること、さらにこれまではgRNAとCas9 を別々のプロモーターで発現させる必要があったが、一つのプロモーター制御下でgRNAおよびCas9 の両方を同時に発現させる系を確立し、培養細胞レベルで実用可能であることを示した。今後はこの技術を活用して、部位特異的な遺伝子改変動物の作出を行う予定である。
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