目的 : 本研究は、脊椎動物の中脳の進化的起源を、進化発生学的なアプローチによって解明することを目的としている。まず、祖先的な形質を保存している可能性のあるヤツメウナギの脳発生について、神経構造や分子的な発生メカニズムを解析する。そこで得られた結果を、他の脊椎動物や原索動物と比較することによって、中脳を獲得した発生要因を見つけ出そうとするものである。以上の目的に従って、本年度は以下のような実験を行い、研究を遂行した。 ①神経構造の解析 : ヤツメウナギ幼生の神経細胞に蛍光デキストランを顕微注入することにより、中脳視蓋の神経細胞の軸索をラベリングした。また、視神経と内側縦束を、それぞれ異なる蛍光色を呈するデキストランを注入することにより、二重ラベリング実験も行った。その結果、中脳視蓋の神経細胞が未分化な状態に留まっていることがわかった。さらに、この二重ラベリング実験系を確立したことは、次年度以降の神経構造の解析にも応用できると期待できる。 ②パターニング分子の機能阻害 : 脊椎動物の中脳の形成には、オーガナイザーである中脳後脳境界(MHB)からのFgf8の分泌が必要であることが分かっている。そこでSU5402によってFgf8の機能阻害を行い、中脳発生への影響を調べた。その結果、中脳発生に重要なEnの発現レベルの大幅な低下が確認でき、また後交連繊維や内側縦束核といった神経要素がFgf8による中脳形成とは独立であることがわかった。研究実施計画計画との比較 : 申請書に記載した年次計画では、本年度では神経構造の解析と通常胚での発現解析を行い、また次年度にパターニング機能阻害を行う計画になっている。現在までの遂行状況を比較すると、本年度の計画は概ね完了し、次年度の計画の一部は既に遂行できている。
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