研究概要 |
3次元的な地震モーメント解放分布によって, 現実的な断層形状を表現可能なインバージョン法の定式化をおこない, その実装と数値実験, 実データへの適用をおこなった. 古いスタイルで書かれていた既存のFortranプログラムの一部を, モジュールを用いた型安全なプログラムに書き換えた. そして, 数値実験によって、少なくとも誤差を無視できる理想的な条件下では, 提案手法が断層の位置や走向・傾斜・滑り角を求める上で有効であることを確かめた. 実データへの適用可能性を評価するため, 断層形状が比較的良く知られている2008年四川地震の遠地実体波波形解析をおこなった. その結果, 測地データやフィールドデータなど, 遠地実体波以外のデータから求められた断層形状と調和的な解が得られることが確認された. これらの結果について, 日本地震学会2013年度秋季大会でポスター発表をおこなった. この発表をもとに, 現在論文を執筆中である. Nth-root stackingの性質についての研究もおこなった. 系統的なモデル化誤差の影響を軽減するには, 様々な種類のデータを異なる手法で解析し, それらの結果を総合的に解釈することが重要である. 1Hz程度の高周波の地震波からみた震源像を求める手法として, (Hybrid) Back-projection法が存在する. これらの手法は, 平渦化等の拘束条件なしに高周波波形からみた震源像を求めることができ, 震源過程を解釈する上で重要な情報をもたらすと考えられる. Nth-root stackingはこれらの手法で, シグナルを強調するために使用されてきたが, どのようなパラメタを用いてNth-root stackingを実行するべきか, という明確な指針はこれまであたえられてこなかった. 申請者は, 強調すべき最弱のシグナルの振幅から適切なパラメタを推定できることを示し, 現在論文を執筆中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
25年度に予定していた定式化が完了していない. 理由として, 当初予定していなかった, Back-projection法で得られた震源像の解釈に関係する, Nth-root stackingの研究にも取りかかったこと, 既存のプログラムを拡張するための整理作業と, ツールやライブラリの選定・修正に想定外に時間がかかったことが挙げられる. 震源の「3次元的なモーメント解放分布による表現」については, 予定よりも早く実装まで完了した.
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は, 定式化と平行して, 解析プログラムの作成をおこなう. 複数のデータを使用するため複雑なプログラムになることが予想されるが、以下のような点を心がけ、迅速な開発を行う. 1. 解析手法のロジックを抽象化して実装し, 変更を容易にする. 2. 速度を要求されない部分は, Python/SciPyを用いて, 可読性の向上と, 実装・テストの手間を削減を行う. 3. 平成25年度に作成した単体テスト用のルーチンなどを用いてテストを効果的におこない、プログラムの品質を保証する.
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