本研究を進めるにあたり、平成26年度は1950年代初頭から1960年代中頃にかけて日本で開催された外来のミュージシャンの来日公演を対象とし、新聞を中心とする文献調査を行った。本研究に着手した当初は1970年代以後のロック文化に主眼を置いていた。しかし、調査を進めるうちに戦後のポピュラー音楽公演においてはロック以前の諸ジャンルでも聴衆の動静が議論されてきたことを知り、その変容を考察するには、海外の著名なミュージシャンの来日を受けて1950年代ごろから盛んになったジャズ・コンサートにまで対象を広げ、より通ジャンル的に公演中の聴衆の動静を論じる必要があると判断した。そのため、本年度は公演についての情報が記載された新聞を中心とする文献史料の渉猟に専念し、1950年代から1960年代中頃までの縮刷版およびデータベースの調査を終えた。 前年度までのロック公演を中心とする客席の文化史は、これまでの国際会議での発表をもとにした英語論文をまとめて『Trans-Asia Popular Music Studies』にて発表した。また、本年度の来日公演調査の成果については、現代風俗研究会東京の会にて「来日公演のライヴ文化史――主権回復後からビートルズまで」と題した口頭発表にて報告した。 本研究の対象は二年間の研究期間を通して、1970年代以降のロック文化を扱うものから、冷戦が激化していた頃の1950〜60年代のポピュラー音楽文化を広く扱うものへと変容した。そのため、当初の研究計画よりも成果の発表が遅れてしまったが、今後はこれまでに整理した一次史料を整理した上で、通ジャンル的かつ環太平洋的な視座のもと、戦後ポピュラー音楽のライヴ文化がミュージシャンたちの国際的な活動のなかでどのように生成され、また「客席」に集った聴衆たちはどのように公演に臨んでいたのかを実証的に考察していきたい。
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