研究概要 |
本研究では, 地震水平荷重作用時の骨組中の柱の座屈長さ(弾性座屈軸力)について考察するために, 転倒モーメント相当鉛直荷重を用いている. 転倒モーメント相当鉛直荷重とは, 地震水平荷重作用時と柱軸力分布が相似になる鉛直荷重群である. 当該年度の成果は以下の3点である. 1. 転倒モーメント相当鉛直荷重に対する不均等骨組の弾性座屈性状について数値解析プログラムを用いて考察し, 我々が過去に行った均等骨組の数値解析結果と合わせて以下の知見を得た. 転倒モーメント相当鉛直荷重を受ける多層多スパン骨組では, 大きな圧縮軸力を受ける柱が各層ごとに弓なりに変形する個材座屈モードになることがほとんどである. また, その座屈軸力は既往の研究の多くが対象としている鉛直下向き荷重作用時よりも大きい. 現行の設計規準でも鉛直下向き荷重に対する座屈長さの算定図表しか示されていない. 本研究は水平荷重作用時にもこの図表を用いるのは座屈耐力を過小評価するということを示した. 2. 理論的な考察によって以下の知見を得た. 転倒モーメント相当鉛直荷重作用時には, 同一層内の柱軸力の和が0になる性質があるので, 圧縮軸力が柱を倒そうとする効果と引張軸力が柱を鉛直に戻そうとする効果が相殺され, 個材座屈モードが生じる. 一方で, 柱の軸方向変形を考慮すれば二つの効果に差が生じ, 層間水平変位の大きな座屈モードが発生して座屈軸力が大きく低下する場合がある. この知見によって数値解析結果の傾向を理論的に説明することが可能となった. 3.2の知見を用いて地震水平荷重(転倒モーメント相当鉛直荷重)に対する骨組中の柱の座屈長さ(弾性座屈軸力)を簡易に算定する図表と, より精度よくこれを算定できる計算手法の2つを示した. 現行基準では水平荷重に対する座屈長さ算定手法が示されていないので, この成果は重要である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
地震水平荷重作用時の建築骨組の弾性座屈性状について数値解析を用いた考察を行った. また, 理論的にその性状を説明することに成功した. そして, 地震水平荷重作用時の多層多スパン骨組中の柱の弾性座屈長さを算定する手法を示すことができた. 以上の成果の一部は平成26年度に実施を計画していた内容が含まれており, 当初の計画以上に進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
当初平成25年度~平成26年度の2カ年で, 平面骨組に地震水平荷重が作用する際の弾性座屈性状を明らかにすることを目標としていたが, これを平成25年度内でほぼ達成している. 今後は新たに, 立体骨組に地震水平荷重が作用する際の弾性座屈性状について考察する. 立体骨組では地震水平荷重が作用する方向と直交する構面で, 全ての柱が圧縮軸力を受ける構面が存在する. この構面は全ての柱が倒れるように座屈するので, それにつられて骨組全体がねじれる座屈モードが生じる. これは平面骨組では表現できない座屈モードである. このねじれ座屈モードについて数値解析を用いて考察することによってその弾性座屈性状を理論的に説明し, 座屈軸力算定手法を提案する.
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