研究課題/領域番号 |
13J00677
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
浅田 梨絵 広島大学, 医歯薬保健学研究院, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 小胞体ストレス / OASIS / 大腸炎 / 褐色脂肪細胞 / BBF2H7 |
研究実績の概要 |
慢性大腸炎における小胞体ストレス及び小胞体ストレストランスデューサーOASISの役割を明らかにするために、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を断続的に投与した。DSS投与マウスでは、下痢、大腸の長さの短縮や発赤、腫脹が観察された。組織学的には無秩序な大腸陰窩構造、陰窩基底部における未分化細胞の活発な増殖、間質へのリンパ球やマクロファージの強い浸潤を伴った慢性炎症像が観察され、慢性大腸炎を発症していた。このモデルの粘膜上皮における小胞体ストレスマーカーの発現量及び発現領域を調べると、Bip、Choなど全ての小胞体ストレスマーカーがコントロール群と比較して広範囲に発現量が増加しており、慢性大腸炎の病態形成に小胞体ストレスが関連していることが示唆された。次に、小胞体ストレスを緩和する化学シャペロンのタウロウルソデオキシコール酸(TUDCA)の投与による慢性大腸炎の病態形成抑制を試みた。その結果、大腸の器質的変化が改善され、成熟杯細胞の数や、大腸の陰窩構造が正常に近いものに回復した。以上より、慢性大腸炎における組織のリモデリングに小胞体ストレスが深く関連しており、小胞体ストレスを緩和することによって慢性大腸炎の病態が抑制できることが明らかとなった。次に、OASIS欠損マウスを用いた慢性大腸炎モデルマウスの作製を試みた。しかし、急性大腸炎モデルマウス作製と比較して低濃度のDSS投与にも関わらず、OASIS欠損マウスは初回のDSS投与期間後の投与休止期間中に死滅した。この時のOASIS欠損マウスの大腸粘膜上皮を調べると急性大腸炎の組織像と酷似しており、OASIS欠損マウスは急性期の大腸傷害から回復できないことが考えられた。 一方、小胞体ストレストランスデューサーBBF2H7の褐色脂肪組織における解析では、BBF2H7欠損によって褐色脂肪細胞質中にグリコーゲン様の物質が蓄積しており、BBF2H7が褐色脂肪細胞分化に重要な役割を担っていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
OASIS欠損マウスを用いた慢性大腸炎モデルマウスは作製できなかったが、申請時の計画通り、化学シャペロンTUDCA投与によって、小胞体ストレス緩和による大腸炎病態形成抑制に成功した。また、BBF2H7の褐色脂肪組織における解析では、BBF2H7欠損マウスにおいて褐色脂肪細胞の分化障害を示唆するような結果を得られていることからも、本研究は、生理機能制御における小胞体ストレス応答の役割の解明という目的に向けて、順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度から、大腸炎の解析と並行して褐色脂肪組織における小胞体ストレス応答及び小胞体ストレストランスデューサーBBF2H7の役割を明らかにしようと解析を行っている。BBF2H7はOASISと相同性が非常に高く、OASISと同様に特定の細胞の分化・成熟に必要である。BBF2H7は褐色脂肪組織に強く発現しており、BBF2H7を欠損すると褐色脂肪組織が肥大化することから、褐色脂肪細胞の分化や活性化において重要であることが示唆されている。一方で、褐色脂肪組織において活発に熱産生が行われている時の、BipやsXbp1など小胞体ストレス応答関連遺伝子の発現量を調べると、いずれの遺伝子も増加しており、熱産生と小胞体ストレス応答に関連性があることを見出している。生理機能制御における小胞体ストレス応答の役割について更なる理解を深めるために、今後は褐色脂肪組織における解析を精力的に進めていく。 具体的には、BBF2H7欠損マウスの褐色脂肪組織における解析を中心に行う。既に、褐色脂肪組織の肥大化と褐色脂肪細胞中にグリコーゲン様の物質が蓄積することを見出しているので、このような表現型に至る詳細な分子機構解明を目的とする。解析には、動物実験の他に褐色脂肪前駆細胞の初代培養技術や各種阻害剤等を用いて、小胞体ストレス応答によって制御される分化・活性化シグナルを明らかにする。また、分子機構のみならず小胞体ストレス応答による褐色脂肪細胞の生理機能制御が亢進、抑制された時に生体の代謝ネットワークにどのような影響を及ぼすかなど、肥満をはじめとした代謝性疾患の病態形成機構解明、治療法開発までをも視野に入れて研究を進めていく。
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