本研究は、途上国における森林保全政策であるREDD+(Reducing Emissions from Deforestation and forest Degradation plus)のインセンティブ設計について、インドネシア農家の防火活動への労働割当という観点から検討をおこなった。分析では、農家の防火活動を変数として加えたハウスホールドモデルによる理論予測と、現地農家の家計調査によって得られたデータを用いた定量的分析をおこなった。結果として、現地農家の防火活動従事は、金銭的インセンティブだけではなく、協同農業への参加などの非金銭的要因によっても促進されることがわかった。 本研究の政策的含意は以下の2点にまとめることができる。まず第一に、協同農業などの社会的規範を高める行動を考慮すれば、森林保全に係る費用が低くおさえられることを定量的に示した点である。森林保全に関する費用の大きさは、国際的に議論されてきたが、これまでのところ具体的な解決策は示されていない。本研究で示された、非金銭的インセンティブによる防火活動の促進は、費用抑制の可能性として、今後の森林保全政策における重要な視点を与えることができたと考えられる。 次に、森林保全政策の実施においては、インセンティブ設計が重要であることをあきらかにした点である。インドネシアで実施されたREDD+の施行プロジェクトでは、30億円以上の資金が投じられたのにも関わらず、現地農家の森林保全行動を促進する効果は得られなかった。これは、分配に関する費用と仕組みが原因となって、現地農家に金銭的インセンティブが届かなかったためである。したがって、政策実施に関する費用を鑑みると、金銭的インセンティブと非金銭的インセンティブとの組合せによって、森林保全が最も促進されると考えられる。
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