伝統発酵食品の福山酢由来の乳酸菌Lactobacillus plantarum ML11-11は、出芽酵母と共存すると細胞間接着により顕著な複合バイオフィルム(BF)形成や共凝集性を示す。これらの現象にはML11-11細胞表層レクチン様タンパク質と酵母細胞表層マンナンが関与することをこれまでに明らかにしてきた。 本研究では、酵母接着性乳酸菌ML11-11のタンパク質因子の同定を目的とし、ML11-11の野生株と酵母への接着能を失った変異株を比較解析した。細胞表層電位を測定したところ、変異株では負電荷が顕著に増大していた。変異株では細胞表層タンパク質量が少なく、負電荷を持つテイコ酸が露出することが原因と推察された。一方表層タンパク質の抽出に関しては、昨年度はLiCl抽出を行ったが、LiCl処理細胞の共凝集性を精査した結果、酵母との接着活性が保持されていたことから、本処理は目的タンパク質の抽出に適さないことが判明した。そこで新たにSDSによる抽出を試みた。抽出画分のSDS-PAGEにて野生株と変異株で差異の見られた複数のバンドを質量分析した結果、多種類の細胞内タンパク質が同定された。以上より、ML11-11においては、細胞内タンパク質が何らかの機構で細胞表層にtranslocateされ、酵母との接着に関与していることが示唆された。 また、清酒酵母協会7号及びその泡無し変異株701号を用いて、ML11-11との相互作用を検討した結果、7号はML11-11との共凝集性や複合BF形成性が701号に比べ有意に低いことが判明した。この原因は7号の細胞表層AWA1タンパク質がマンナンとML11-11レクチン様タンパク質の接着を阻害するためと考えられた。 これらの酵母接着性乳酸菌の表層タンパク質に関する知見は、乳酸菌と酵母の細胞接着機構の解明や、複合BFの産業利用の観点から重要な成果と評価できる。
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