研究課題
東南極セール・ロンダーネ山地では、泥質岩中の黒雲母の塩素濃度を調べることで、塩水活動の痕跡が同山地東西200㎞に渡って線状に分布していることが報告されている(Higashino et al, 2013)。今年度は、まずこの塩水活動が特定の岩相に依るものなのかを調べるために、同山地に産するマフィック岩に着目し、角閃石・黒雲母の塩素濃度を調べた。その結果、泥質岩から得られていた濃い塩水活動の線状分布とほぼ同じ結果がマフィック岩からも得られ、濃い塩水活動は、特定の岩相に限定されないことが分かった。手元に無い地域の試料は国立極地研究所所有の試料を分析し、線状分布を支持する結果を得た。特に同山地中央部の地域からは、卓越する片麻状構造の形成前と、片麻状構造の形成後の二段階の塩水活動が確認された。これらの試料に対して変成温度圧力見積りを行ったところ、濃い塩水活動は、変成作用のピーク近くから後退変成期にまで及び、特定の温度圧力条件に限定されないものの、700℃、0.7GPa以上という比較的高温で起きていることが分かった。片麻状構造の形成後に流入した塩水は、塩素に富む角閃石とザクロ石から成る脈を形成している。このため、脈からの距離に応じた鉱物組成変化をEPMAを用いて調べ、脈からの距離に応じた全岩化学組成をXRFを用いて調べることで、塩水の流入に伴ってNaも流入していることが分かった。塩水の流入に伴って移動した微量元素は、脈からの距離に応じた鉱物の局所分析および全岩化学組成分析を、ICPMSを用いて行うことで解明できると期待され、現在分析およびデータ解析を進めている。濃い塩水活動が、特定の岩相に限定されず、同一岩相内で複数回起きているということと、塩水のカチオンを制約できたことは、濃い塩水活動の活動時期や塩水の起源の制約につながると期待される。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、国立極地研究所所有の試料も含めた、マフィック岩の分析を進め、塩水活動の温度圧力条件の制約を行うことができた。全岩化学組成分析は予定通り、東北大学を訪問し、試料準備と分析をさせていただいた。今年度の成果については、国際シンポジウムで招待講演として発表するなど高い注目を受けており、投稿論文としてまとめ、現在国際誌へ投稿準備中である。
セール・ロンダーネ山地で線状に分布しているように見える塩水の痕跡の一部は、近年、ドイツ隊が同山地で行った航空地磁気観測の結果と併せると、磁気的境界に沿って、塩水の痕跡が分布しているように見えることが分かった。これは、塩水活動と地質構造の関連性を結びつける重要な事実であり、現在進行中のデータ解析に加え、今後は磁気的境界付近の試料を重点的に調べる予定である。
すべて 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (10件) (うち招待講演 2件) 図書 (1件) 備考 (2件)
Precambrian Research
巻: 234 ページ: 229-246
http://www.kueps.kyoto-u.ac.jp/~web-Ret/indexj.htm
http://www.kueps.kyoto-u.ac.jp/~web-pet/higashno-j.htm