研究実績の概要 |
昨年度の研究成果を踏まえ、東南極セール・ロンダーネ山地中央部に産する、片麻状構造を切るように発達するザクロ石―角閃石脈を含む、ザクロ石―斜方輝石―角閃石片麻岩を詳しく調べた。この脈の形成プロセスを調べたところ、角閃岩相高温部で外部から元素の添加を伴って形成した脈であることが分かった。脈から離れるにつれて、角閃石および黒雲母の塩素濃度は減少し、角閃石中の K 濃度も減少する。さらに、斜長石のNaに富むリムも薄くなることから、NaCl, KClの添加が示唆される。 次に、脈の形成に伴い動いた元素の制約を行った。まず、元素の添加・溶脱を議論するために必要な、不動元素を選定した。LA-ICPMSを用いた構成鉱物の局所微量元素分析、ジルコンのU-Pb年代測定、EPMAを用いた微細組織の観察を用い、Zrを不動元素として選定することの妥当性を示した。Zrを不動元素とする過程は、国際誌に論文を投稿し、現在査読中である。 Zr を不動元素として選定した結果、ザクロ石―角閃石脈の直近の壁岩部分では、Li, Cu, Rb, Ba, Pb, Uが添加されていることが分かった。これらの元素は、メルトよりも流体相に入るとされることから、脈は塩水流入によって形成されたと示唆される。また、構成鉱物の局所微量元素分析を行ったところ、全岩化学組成では添加されていると認められない元素も、脈からの距離に応じて徐々に濃度が上昇・減少する傾向があることが分かった。物質移動を扱う先行研究では、添加・溶脱した元素に着目して、移動成分を制約するものが多く存在する。しかし、本研究で得られた、全岩化学組成分析と鉱物の局所分析結果は、元素の「移動」は、添加・溶脱が認識される元素に留まらず、より大規模に起きており、物質移動の解明の複雑さを示すものとなった。
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