研究課題
前年度に引き続き、三次元的な伝導経路を有する含窒素新規半導体分子の開発を目指した研究をおこなった。今年度は、ヘテロペンタセンが直交する形で二量化した十字型ヘテロアセン二量体が、これまでに例のない三次元構造を有するπ電子系構築に極めて有望であることを実証した。具体的には、十字型二量体について、異なる三種類の手法によって分子拡張をおこない、3つの異なる立体構造を有する三次元π電子系分子の構築に成功した。すでに前年度において、パラジウム触媒を用いたクロスカップリング反応による三層積層分子の合成に成功している。今年度は分子間および分子内による酸化的カップリングによる拡張を試みた。十字型二量体をDDQで酸化したところ、二量体がさらに二量化した分子の生成が確認された。X線単結晶解析によりこの分子は、二量体同士が炭素-炭素結合によって連結された”#”字型構造をもったヘテロアセン四量体であることが明らかになった。この分子は分子内に直交する2つのπスタックペアをもっていることから、バルク中で等方的な電荷輸送経路を有する可能性があり、有機半導体材料として興味深い分子系である。また、十字型二量体をDDQとSc(OTf)3を用いて酸化することで、2つのらせんを有するダブルヘリセンを簡便に合成することができた。このダブルヘリセンは、分子内に同じ向きのらせん(右右および左左)をもっており、光学活性であることがわかった。この分子は圧力によって移動度が変調する半導体材料となる可能性があり、非常に興味深い。このダブルヘリセンは酸化体が極めて安定であり、ラジカルカチオンを結晶として単離することにも成功した。カチオン状態の吸収スペクトルおよび電子スピン共鳴測定から、ダブルヘリセン内において正電荷が分子全体に非局在化していることが明らかになり、この分子のホール輸送材料としての高いポテンシャルが示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
前年度に開発した十字型アザアセン二量体が、積層π電子系分子の構築に有効であるのみならず、これまで開発が難しかった2つのらせん状構造を有したダブルヘリセン合成の簡便な前駆体であることを明らかにすることができた。本結果は化学系最高峰誌であるAngewandte Chemie International Editionに掲載され、査読者から高評価を得たことからバックカバーを飾るに至っている。このダブルヘリセンは積層π電子系分子同様、圧力印加によって電荷移動度が変調可能な有機半導体分子となる可能性があり、非常に興味深い。以上より、今年度の研究は当初の予定を上回る成果を上げたと考えている。
これまでに合成に成功してき特異な三次元構造を有する含窒素π共役系分子について、時間分解マイクロ波伝導度(TRMC)法などの測定によって伝導性のスクリーニングをおこない、材料としての応用を目指す。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (4件)
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