研究課題/領域番号 |
13J00727
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
間瀬 謙太朗 大阪大学, 大学院工学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 酸素還元 / 過酸水素 / コバルトクロリン / 酸素還元有機触媒 / クロム5価コロール錯体 / 水の酸化 / 可視光応答性光触媒 / 1ステップ |
研究概要 |
酸素の2電子還元で得られる過酸化水素は工業的には漂白剤や有機合成におけるクリーンな酸化剤として用いられるだけでなく、常温常圧において液体であることから燃料電池の燃料としても期待されており、その効率的な生成法の確立が求められている。これまでにコバルトクロリン錯体は選択的に酸素を2電子還元すると共に、酸性溶液中で非常に安定であり、過電圧も小さいことを報告している。平成25年度は当初の目的であった金属クロリン二量体を合成する過程で種々のコバルトクロリン誘導体の合成に成功し、マクロサイクル上の置換基の違いが触媒活性や反応機構に及ぼす影響について検討した。その結果、配位子上にβ-ケトエステル構造を有するコバルトクロリン配位子はこれまでのコバルトクロリン錯体と比べ、触媒反応速度が36倍にもなることが分かった。これはβケトエステル構造を有することでケト・エノール互変異性のため酸性溶液中でプロトン化されにくく、酸素還元活性種であるコバルト2価錯体の酸化電位が低くなり、律速過程である酸素のプロトン共役電子移動還元が加速されるためであることを明らかにした(論文投稿予定)。 また金属錯体を用いた酸素還元触媒系は数多く報告されているが、メタルフリー触媒系による報告例は少なく、反応メカニズムは明らかにされていない。本研究では酸素分子に対して多点水素結合を形成し得るトリフィリン誘導体を触媒とする酸素還元反応の機構解明に挑み、酸素を選択的に2電子還元し過酸化水素を得ることが分かった。このときの反応活性種はトリフィリン誘導体の2電子・2プロトン還元体であり、酸素への水素原子移動が律速過程であることを初めて明らかにした(論文投稿予定)。 さらにCrを中心金属とするクロム5価コロール錯体を用いても酸素の選択的な2電子還元により過酸化水素が得られることを明らかにした(論文投稿予定)。 最終的には酸素還元システムと水の酸化システムを複合化し、水を電子源とする光駆動過酸化水素生成システムを構築する予定である。この複合システムにおいては可視光応答性の光触媒を用いることが、より高い太陽エネルギー変換効率を得る上で重要となる。この際、1ステップで水の酸化反応と酸素還元反応を同時に達成するためには、より小さな過電圧で効率よく酸素を還元する触媒が必要となる。今回得られた高効率かつ高い耐久性を有するコバルトクロリン錯体はこれらの目標を達成する上で非常に重要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目標であった金属クロリン二量体は得られていないが、この研究過程で様々なコバルトクロリン錯体の誘導体の合成に成功した。これらの誘導体を用いて置換基の違いが触媒活性に及ぼす影響について明らかにすることができた。また金属を用いない有機触媒のよる酸素還元反応機構の解明やコバルトよりもより安価なクロムを中心金属とする錯体による触媒的酸素還元についても検討を行い大変興味深い結果を得ることができた。これらの触媒的酸素還元システムの機構解明・高効率化は水の酸化システムとの組み合わせ、水を電子源とする過酸化水素生成システムを構築する上で非常に重要である。
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今後の研究の推進方策 |
現在は、一電子還元剤を用いた均一系において触媒の高効率化に成功したので、実際に錯体修飾電極を作製し、電気化学的な酸素還元を行う。この際回転リングディスク電極装置などを用いて触媒の担持方法の違いによる活性や反応性の比較を行う予定である。またこの酸素還元システムを水の酸化触媒および光触媒と組み合わせることで、水を重子源とする過酸化水素製造システムの構築に向けて、研究を展開する予定である。生成した過酸化水素の分解を防ぐために酸素還元触媒と水の酸化触媒/光触媒はそれぞれカーボンプレートと導電性透明電極に塗布し、膜により分離した2層系を用いる。
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