転写因子Klf5の初期胚発生過程における機能の解明に取り組んだ。Klf5 KO胚およびKlf5 過剰発現胚において、初期のEpiとPrEのマーカーであるNanogとGata6の発現を発生段階毎に解析した。後期桑実胚期まではNanogとGata6は胚の内側の細胞集団(inner-cell)において共発現していることが知られているが、Klf5 KO胚およびKlf5 過剰発現胚においても同様の発現状態であった。しかし、個々の細胞におけるNanogとGata6の発現レベルを免疫染色の蛍光強度を元に定量した結果、後期桑実胚期(E3.25)において既にKlf5 KO胚の細胞はGata6 high/ Nanog lowの発現状態に移行しており、inner-cellはPrEに分化しつつ有ることが判明した。一方、Klf5 過剰発現胚はGata6 low/ Nanog highの細胞が有意であることから、inner-cellはEpi系列に分化し、PrEへの分化が抑制されていることが推測された。胚盤胞期以降、Klf5 KO胚の内部細胞塊(ICM)ではNanogの発現が消失し、Gata6/Sox17/Gata4陽性のPrE系列の細胞でICMは占められていた。一方、胚盤胞期以降のKlf5 過剰発現胚のICMではNanog陽性細胞数の増加が観察された。また、後期胚盤胞期ではICMにおいてGata6陽性細胞とNanog陽性細胞がモザイク状に分布したままであり、胞胚腔側のICM表層への局在化は観察されなかった。Klf5 KO胚におけるPrE系列への分化は、Fgf-ERK経路の阻害によりレスキュー可能であることから、Klf5 KO胚ではFgf4の発現上昇によりFgf-ERK経路が亢進していることが明らかになった。 以上の結果から、Klf5はE3.25においてFgf4、Nanog、Gata6の発現を制御する上流因子であり、Fgf-ERK経路の抑制により、inner-cellからのEpiとPrEの分化バランスを制御していることが明らかになった。 これらの結果はNature Communication誌に投稿し、現在掲載可否の返答待ちである。
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