研究概要 |
1. 極長鎖脂肪酸生合成の律速段階を担う伸長酵素ELOVLの活性制御機構について新たな知見を得ることを目指した。ELOVL6をHEK293T細胞に過剰発現させた膜画分を用いてin vitro活性測定を行い, ELOVL6の活性がNADPHの添加により上昇することを見出した。NADPHはELOVL6による縮合反応に続く還元反応に必要な補酵素であることから, ELOVL6は次段階を担うKARにより活性を制御されている可能性が示唆された。そこで次にELOVL6と野生型KAR及び還元活性が低下した変異型KAR(アミノ酸置換により作製)をそれぞれ精製した。まずELOVL6を単独で組み込んだリポソームを用いて, アシルCoA基質に対するkm, Vmax値を決定した。次にELOVL6と野生型KAR又は変異型KARを同時に組み込んだリポソームを用いて活性測定を行った結果, ELOVL6の活性が野生型及び変異型KAR共存下で共に上昇した(制御①)。これらのリポソームにNADPHを添加しすると, 野生型KARが共存するリポソームでは活性がさらに上昇した(制御②)が, 変異型KARでは変化しなかった。以上より, ELOVL6はKARにより還元活性非依存的(制御①)・依存的(制御②)な2種の制御を受けることが明らかとなった。 2. シェーグレン・ラルソン症候群(SLS)は, 皮膚・神経症状を示す遺伝性疾患であるが, 発症に至る分子メカニズムは未だ不明であるため解明を目指した。まず, SLSの原因遺伝子であるALDH3A2のジーントラップマウスをEuropean Mutant Mouse Archiveより購入し, 全身でCreを発現するマウスと交配してexon4が欠失した完全欠損マウスを作製した。得られたヘテロマウス同士を交配し, ホモノックアウトマウスを得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1に関して, ELOVL6とKARの物理的相互作用についてのみ, これらの酵素が多重膜貫通タンパク質であることにより解析が難しく, 過剰発現系での解析にとどまっているものの, 機能的相互作用の解析は計画通りに進行し, ELOVLの新たな活性制御機構を解明した。得られた結果を国内外の学会にて発表した。さらに, 既に論文を投稿するに至っており, おおむね順調に研究目的を達成した。 2に関して, Aldh3a2の全身ホモノックアウトマウスを既に得られており, 順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
SLSの発症機構解析は, Aldh3a2 KOマウスの表現型を解析して得られた結果をもとに進める。まずはHE染色などの組織学的解析, 及び行動解析などにより表現型を解析する。得られた結果をもとに, 研究実施計画に沿って解析を進める。特に, SLS患者の皮膚では極長鎖脂肪酸含有セラミドの減少がみられることを考慮し, 極長鎖脂肪酸の組成や代謝に着目して解析を進める。現在のところ順調に進行しているため, 特に変更点や問題点はない。
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