研究課題/領域番号 |
13J00745
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
島 史明 大阪大学, 大学院工学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | ワクチン / ドラッグデリバリーシステム / ナノ粒子 / ポリ(γ-グルタミン酸) / 親-疎水バランス / 免疫誘導制御 |
研究概要 |
現在、ワクチンと共に用いられている免疫増強剤は効果が十分でなく、さらに重篤な副作用をもたらすリスクを有する。さらに、感染症やがんの予防または治療を実現するためには、目的に応じて誘導される免疫の種類(液性免疫や細胞性免疫)や誘導される免疫の度合いを精密に制御する必要がある。しかし、これらを実現可能な免疫増強剤はこれまでに開発されていない。安全かつ免疫誘導バランスを自在に制御できる免疫増強剤の開発において、抗原と免疫増強剤の細胞内及び体内動態の制御が必須である。これを実現するために、高分子からなるナノ粒子(NPs)に抗原を担持させて免疫担当細胞へ選択的に送達するドラッグデリバリーシステム(DDS)を応用する研究が盛んに行われている。中でもNPsの物性(粒径、親-疎水バランス、疎水基の種類)を制御することで細胞との相互作用が変わり、その結果免疫誘導効果が変わると期待されている。樹状細胞などの免疫担当細胞は抗原の疎水性部位を認識することで活性化されることが知られている。そこで、疎水化ポリ(γ-グルタミン酸)(γ-PGA) NPsの親-疎水バランスを制御することで免疫の誘導が制御できるのではないかと考えた。γ-PGAに対する疎水基の導入率を50-71%と変えたポリマーから粒径が200nmの抗原内包NPsを調製し、免疫誘導効果を検討した。その結果、抗原を内包した疎水化γ-PG ANPsは抗原のみに比べて高い免疫を誘導することができ、また、疎水基の導入率が高くなるに従って免疫誘導効果が高くなることが明らかとなった。さらに、樹状細胞による取り込みや活性化は疎水基の導入率増加に伴って高くなった。これらより、NPsの親-疎水バランスを制御することでキャリアと細胞との相互作用を制御でき、それにより誘導される免疫の強さを自在に制御できることを本研究で初めて明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究の目的で記述したように、疎水基の導入率を変えたナノ粒子を調製することで樹状細胞による担持抗原の取り込み量や、樹状細胞の活性化が変わることを明らかにした。さらに、ナノ粒子の疎水性で抗原特異的な免疫誘導効果が変わることを見いだした。このように、ナノ粒子の物性が細胞との相互作用に大きな影響を及ぼすことを初めて解明することができたため、当初の計画以上に研究は進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
ナノ粒子を構成する疎水基の種類が樹状細胞との相互作用や免疫誘導にどのような影響を及ぼすか解明する必要がある。そこで、高分子に導入する疎水基の種類を変えたものを合成し、これがナノ粒子を形成するか検討する。粒子化したものは、安定性や抗原の担持量、細胞毒性を評価する。そして、樹状細胞による取り込み挙動や細胞内動態、活性化能を評価する。さらに、実験動物を用いることで抗原特異的な免疫誘導と疎水基の種類との関係を検討する。
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