現在、ワクチンと共に用いられている免疫増強剤は効果が十分でなく、さらに重篤な副作用をもたらすリスクを有する。さらに、感染症やがんの予防または治療を実現するためには、目的に応じて誘導される免疫の種類 (液性免疫や細胞性免疫) やその度合いを精密に制御する必要がある。しかし、これらを実現可能な免疫増強剤はこれまでに報告されていない。高い安全性を有し、免疫誘導バランスを自在に制御できる免疫増強剤の開発において、抗原と免疫増強剤の細胞内及び体内動態の制御が必須である。これを実現するために、高分子からなるナノ粒子 (NPs) に抗原を担持させて免疫担当細胞へ選択的に送達するドラッグデリバリーシステム (DDS) を応用する研究が盛んに行われている。中でもNPsの親-疎水バランスや組成を制御することで細胞との相互作用を制御でき、その結果免疫誘導の制御ができると期待されている。特に、樹状細胞などの免疫担当細胞は抗原等の疎水性部位を認識することで活性化されることが分かっている。そこで、疎水化ポリ(γ-グルタミン酸) (γ-PGA) NPsの疎水性を制御することで免疫の誘導が制御できるのではないかと考えた。γ-PGAに対する疎水基の種類(アミノ酸エチルエステルの種類)を変えたポリマーから粒径が200 nmの抗原内包NPsを調製し、免疫誘導効果を検討した。その結果、抗原を内包した疎水化γ-PGA NPsは抗原のみに比べて高い免疫を誘導でき、また、疎水基の種類で誘導される免疫の種類やその度合いが変わることが明らかとなった。さらに、樹状細胞による取り込みや活性化能が疎水基の種類で変わる知見が得られた。これらより、NPsの疎水性(疎水基の種類)を制御することでキャリアと細胞との相互作用を制御でき、それにより誘導される免疫の種類や度合いを自在に制御できることを本研究で初めて明らかにした。
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