研究課題/領域番号 |
13J00756
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
河合 祐司 大阪大学, 大学院工学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 生体運動検出 / 2/3乗則 / 新生児 / 予測学習 |
研究概要 |
新生児期に持ちうるミラーニューロンシステム(他者行為理解の能力)として、生体運動検出モデルを提案した。従来の認知発達科学の実験から、新生児でも生体運動を区別して知覚している可能性が示唆され、そのようなメカニズムは生得的であるという議論がなされている。本研究では、胎児期の四肢運動の情報から、その滑らかさといった抽象的な表現(2/3乗則)を獲得し、その抽象表現を視覚情報に適用することで、自他の運動のマッチングをするというモデルを提案した。このモデルにより、自身の運動に類似する視覚情報すなわち低次の生体運動を検出することができる。そして、このモデルを用いて、滑らかな運動の生成・抽象化によって、人歩行の生体運動識別が可能であることを示し、その内部構造について詳細に議論した。このモデルは新生児の生体運動知覚能力が胎児期に獲得される可能性を示唆し、発達科学に新たな視点をもたらすと思われる。 また、計算機シミュレーションにおける運動情報の抽象化に際し、予測学習(自己の次の運動を予測する学習)が重要であることが示された。神経科学の分野から、生体運動を観察したときに賦活する領域と、運動を予測する領域(背側運動前野)にオーバーラップがあることが報告されている。本研究結果から、生体運動知覚能力に運動予測能力が関与する結果として、上記のような異なる課題での背側運動前野の活動が得られたと解釈できる。以上のように, 発達科学・心理学・神経科学の異分野を結ぶ、学際的に矛盾のない生体運動知覚モデルを提案できたことは、それぞれの分野に対し妥当, かつ新規性のある発見であるといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、新生児期の他者運動理解についてのモデルを提案し、発達心理学系の学会で発表した。そこで得たアドバイスをもとにモデルをブラッシュアップすることができた。現在、その研究に関する論文を投稿予定である。また、そのモデル研究と同時平行的に、乳児の運動計測実験の予備実験を進めており、来年度から本実験に取りかかる予定である。以上の理由から、当初の計画に対し、順調に研究が進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
実際の乳児の運動や知覚の計測データに基づくミラーニューロンシステムモデルの構築を目指す。つまり、今後はモデル化のみだけではなく、計測実験も平行して実施する予定である。当初は人を対象とした実験を行う予定ではなかったが、今年度、発達心理学などの他分野の研究者から、実際の乳児のデータに基づいていなければモデルに説得力がないことを指摘された。そのため、ミラーニューロンシステムモデルの根拠となるような乳児の運動・視線データの計測も実験計画に含める。そのような目的での計測実験は既に数多く実施されているが、本プロジェクトで注目している報酬系をもとにする他者との相互作用に関する計測実験はほとんどない。また、そのようなモデル研究も少ない。計測とモデル化の実験を同時に進めることで、非常に新規性かつ説得力のあるモデル研究になるといえる。
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