水とアルコールを混合した液滴の固体壁面上における濡れ性挙動を取り上げ,分子動力学法によるナノスケール解析のシミュレーションを行った.アルコール成分としてIPA(イソプロピルアルコール)及びメタノールを使用した.さらに固液,気液,固気各々の間の界面張力を別個に作成した平面状の液膜系を用いて算出し,アルコールの相対吸着量によって液滴系と照らし合わせた結果,液滴系で観測される接触角と,界面張力の三相界面での釣り合いを表すYoungの式から導かれる接触角が概ね一致した.これに加え,固液界面の張力の算出方法の不確かさを見積もるため,熱力学的積分を用いた方法によって別個に確かめ,研究結果の妥当性の確認ができた.これらの成果をマルセイユで行われたHTFFM-V国際学会で発表し,ベストポスター賞を受賞した. 博士論文執筆の過程でマイクロスケールにおける接触角の定義が曖昧ことに着目した.マイクロスケールにおける液滴が三相界面のごく近傍に他と違った曲率を有する.三相界面近傍の力の釣り合い及び液滴内の圧力と曲率の関係を示すYoung-Laplaceの方程式からYoungの式が与えているのは三相界面近傍の形状を考慮しないマクロな接触角であることを示した.これにより,接触角の測定に任意性がなくなり,以前に得た結果の妥当性が大きく向上した. 研究の次の段階として,より実在系に近づけるため,壁面と液体分子の間にクーロン作用のある系を扱う必要がある.ただし,今まで以上に固液界面エネルギーの算出が困難であり,熱力学的積分による計算が最も確実である.この手法をそういった系に拡張するため,開発者の元に赴き,理論的な枠組みを作り上げた.
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