光学顕微鏡は試料を非破壊で観察できるため、微細構造を持つ材料の品質確認や、生体分子の機能解明に用いられる。中でもラマン顕微鏡では、分子振動の情報が得られるため、無標識の分子イメージングが可能であり、カーボン材料の品質評価や、生体組織をそのまま観察できる手法として活躍する。高空間分解能かつ高時間分解能を両立する新しいラマン顕微鏡は、幅広い応用分野にインパクトを与える。私はラマン顕微鏡の空間分解能の向上を目指して研究をおこなった。 本研究では、ラマン顕微鏡の空間分解能を向上させるため、構造化照明法に着目した。構造化照明顕微鏡では、縞模様状の照明によって試料を観察する。微細な試料の構造に構造化照明が重なり合うと、モアレ縞と呼ばれる粗いパターンが現れる。このモアレ縞は元の微細構造の情報を持っており、取得した画像を数学的に処理することで、従来観察不可能であった微細構造の情報を抽出できる。我々は、励起レーザー光をライン状の干渉パターンにし、ラマン散乱をスリット型分光器で分光検出する、構造化ライン照明型のラマン顕微鏡を設計し、構築した。 構造化照明ラマン顕微鏡の性能を評価するために、ポリマー微粒子、グラフェン、グラファイト、マウス脳切片といった幅広い試料の観察を行った。従来のスリット走査型ラマン画像に対し、開発した顕微鏡ではこれら全ての試料においてy方向の空間分解能向上が顕著に顕れた。微小な蛍光ビーズを用いた空間分解能の評価では、LIの空間分解能が380 nmに対し、SLIでは190 nmという結果が得られた。 本研究で我々は世界で初めての超解像自発ラマン顕微鏡の開発に成功した。今後の展望として、開発した顕微鏡を応用し、生体試料の機能解明に取り組む計画である。
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