本研究の目的は、①先古典期から古典期にかけてのメソアメリカ太平洋沿岸部の製塩活動と社会の実態を解明すること、②イロパンゴ火山噴火が沿岸部社会に与えた影響を解明すること、以上の2点を総括し、③紀元後5世紀イロパンゴ火山の巨大噴火前後のメソアメリカ太平洋沿岸部の生業と社会の特質について考古学的に明らかにすることである。 【イロパンゴ火山噴火の年代とインパクトに関する研究】 火山灰との前後関係が明瞭なチャルチュアパ遺跡出土の建造物と土器を分析し、噴火年代は紀元後400~450年頃、火口から西約80kmに位置するチャルチュアパでは従来の研究が示すような壊滅がおきるほどのインパクトはなかったことを確認した。また、火口から東に約55km離れたヌエバ・エスペランサ遺跡調査成果を検証したところ、噴火時に避難する猶予が存在したことがわかった。 【ヌエバ・エスペランサ遺跡の考古学調査】 イロパンゴ火山灰に覆われた太平洋沿岸部集落であるヌエバ・エスペランサ遺跡の考古学調査をおこなった。その結果、当該地域では初となる高さ約2m、長さ約70mの人工の土製マウンドを発見した。これらは大量の粗製土器片、炭化物、焼土片からなる。 【エルサルバドル太平洋沿岸部集落における20世紀の製塩活動に関する調査】 調査地域で近年まで存在した、つまりすでに消失してしまった塩田での製塩活動に関する聞き取り調査を実施した。塩田跡地の記録、製塩方法および当時の経済状況などについて記録することができた。また、別の村落で、塩田による製塩活動以前におこなわれていた製塩方法、つまり鉄釜を用いた製塩活動に従事していた人物に聞き取り調査を実施した。
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