昨年度に見出したニッケル錯体を用いたトリフルオロメチルケトン類のC-F結合活性化反応を基盤とし、トリフルオロメチルケトン類とアルデヒドのC-F結合切断を経るReformatsky反応の開発に取り組んだ。 従来、ジフルオロメチレン化合物の合成には高価な原料を用いるか、あるいは多段階にわたる合成を要していた。一方で、トリフルオロメチルケトン類のC-F結合の切断を経るReformatsky反応が実現すれば、安価なトリフルオロ酢酸誘導体を、一段階で有用なジフルオロ化合物へと変換できる理想的な手法となりうる。しかし、これまでReformatsky反応に適用可能な基質はC-Cl、C-Br、およびC-I結合を有するカルボニル化合物に限定されており、強固なC-F結合の切断を伴う反応は一例も知られていなかった。 そこで、今回、C-F結合の切断を経るReformatsky反応を実現するために、この反応の鍵中間体となりうるジフルオロエノラートを、トリフルオロメチルケトンに対してボリル銅錯体の付加反応により発生させられるのではないかと考えた。実際にトリフルオロメチルケトンに対して合成したボリル銅錯体を作用させたところ、エノラートが生じたと考えられる結果が得られた。この結果をもとに、系中でボリル銅が発生させられると考えられている、塩基、銅塩およびジボロンの組み合わせを主軸に、種々反応条件の検討を行った結果、トリフルオロメチルケトンとアルデヒドから効率的にジフルオロメチレン化合物が得られることを見出した。また、メカニズムに関する検討を行い、反応機構に関する知見を得た。 今回得られた研究成果はドイツの化学誌Angewandte Chemie International Editionに掲載された。
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