研究概要 |
ヒトは加齢に伴い睡眠の量・質ともに低下し, 高齢者は若年者に比して睡眠に問題を抱える者が多いことが明らかになっている。不良な睡眠は様々な不健康状態へとつながるため, 現代社会において, 高齢者の睡眠障害への対処は急務の課題といえる。睡眠改善方策として睡眠薬による治療が有名であるが副作用の危険性が問題視されており, 必ずしも最善とはいえない。そこで, 副作用の危険性が小さく, 心身への恩恵が大きい身体活動に注目が集まっている。身体活動が睡眠に与える影響や関連性について検討した先行研究は散見されるが, どのような活動強度・量・様式(運動, 家庭内活動, 仕事関連活動)が良好な睡眠につながるのかについては不明な点が多い。そこで, まずは509名の地域在住高齢者を対象に, 強度や様式ごとの身体活動と睡眠との関連性について網羅的な検討をおこなった。その結果, 運動の中でも高齢者の間で人気のあるゲートボールや健康体操などの比較的強度の低い運動や, 家事・雑用などの家庭内活動の実践であっても良好な睡眠と関連することを明らかにした。本研究結果は, 身体的制約により高強度運動の実践が困難である高齢者にとって極めて有用な情報となることが期待される。さらに, 良好な睡眠と関連する身体活動の強度や様式を明らかにした本研究は, 睡眠改善に有用な身体活動(運動)処方の確立, および当該研究領域の発展に大きく貢献しているといえる。なお, 本研究結果は, 既に学術誌(体力科学)への掲載が完了している。 今後はより大規模のデータ(対象者数 : 10,000名弱)を使用して身体活動強度・量と睡眠との関連性を明らかにする。これについては, すでにデータ収集・解析が完了し, 執筆段階にある。その後, これまでの研究成果を基に運動介入研究を実施することで, 運動強度や量が睡眠に与える影響(因果関係)を明らかにする。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
検討課題の一つである, 高齢者の強度・種類(運動, 家庭内活動, 仕事関連活動)ごとの身体活動と睡眠との関連性については検討が終了しており, 結果は既に学術誌(体力科学)に掲載されているため。また, その次の課題である, より大きなデータを使用した身体活動強度・量と睡眠との関連性の検討についても, すでにデータ収集と解析が終了し, 執筆段階に取り掛かっているため。
|
今後の研究の推進方策 |
まずは上記の身体活動強度・量と睡眠との関連性についての分析結果を海外の学会誌へ投稿するため, 論文執筆を始める。同時に, その次の課題である, 身体活動が睡眠に与える影響を検討するための介入研究を執りおこなう準備を始める。具体的には, 研究デザインの構築(対象者の選定方法や測定項目の決定など), および予備実験をおこなう。これに当たっては, 運動介入や睡眠研究の専門家に測定機器や介入期間・頻度, 介入プログラム等についてアドバイスを求め進めていく予定である。
|