研究実績の概要 |
本年度は,1日の全ての活動を含んだ身体活動に注目し,良好な睡眠とのつながりが最も強い身体活動強度や量を追究した。地域在住高齢者約3,500名を対象とした横断的疫学調査から,中強度身体活動(3-6 METs)を週300分以上実践している者は,週149分未満の者に比して不良な睡眠(短時間睡眠,入眠困難感,低い睡眠満足度)を有している可能性が低いことを明らかにした。一方で,高強度身体活動(6 METs以上)と睡眠との間には有意な関連性はみられなかった。本研究結果は,現在,学術誌へ投稿中である。また,こうした身体活動強度と睡眠との因果関係を明らかにすべく,約1,700名を対象に実施した縦断的疫学調査(平均追跡期間:3.4年)から,60歳以上の者では中強度身体活動の実践が新たな不良な睡眠の質の発生を抑制した一方で,高強度身体活動では不眠予防効果がみとめられなかった。本研究成果は,学術誌(American Journal of Preventive Medicine)への掲載が決定している。これらの知見から,高齢者が健やかな睡眠を得るには高強度のものではなく,比較的強度の低い身体活動の実践が有効であることが示唆された。また,本年度は,身体活動に他の睡眠改善因子を加えた場合の睡眠との関連性を検討し,身体活動の効果を最適化する方法を追究した。その結果,身体活動に,同じく睡眠に対して好影響を与えると考えられている牛乳・乳製品摂取を組み合わせることで,寝つきの良さとの関連性が強化されることが示唆された。睡眠をアウトカムに,二つの因子を組み合わせて関連性を調査した例は皆無であり,身体活動と牛乳・乳製品摂取という身近な生活習慣により効率的に高齢者の睡眠を改善させることができる可能性を示した本研究の意義は大きいといえる。本研究結果は学術誌(BMC Geriatrics)へ投稿し,既に掲載されている。
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