本研究は、ラトヴィア語・日本語・ロシア語における動詞のアスペクトに関する対照研究である。とりわけ、構造的に類似し、系統的にも近いラトヴィア語とロシア語の動詞アスペクトを対照した。 ラトヴィア語の動詞アスペクトの研究は、これまでのラトヴィア語学において進んでこなかったほか、ロシア語をはじめとするスラヴ語との対照研究は存在しなかった。スラヴ語では文法カテゴリーである完了・不完了の対立を成すアスペクトは、ラトヴィア語では部分的にしか実現せず、その対立の性格は厳格でない。また共時的な語形成の傾向から見た借用語の動詞の接頭辞付加では、両言語ともに借用語の動詞の完了化に特化しているといえる接頭辞(ラトヴィア語no-、ロシア語pro-)が存在することを明らかにした。 一般に外国語としてのラトヴィア語教育では、アスペクト対立は明示的に教授されることがない。しかしアスペクト対立が文法化されているロシア語の学習教材との比較により、ラトヴィア語教育におけるアスペクト対立の導入の重要性を顕在化し、本研究成果の言語教育への応用の可能性を示した。 またアスペクト対立以外に「少し…する」という個別的なアスペクトに注目し、ラトヴィア語とロシア語の接頭辞pa-/po-を対照した。これらの接頭辞は両言語ともに、個別的なアスペクトのみならず、事象に対する話者の主観的評価を示しうる。一方で、多重接頭辞付加におけるこれらの接頭辞のふるまいを見ると、多重接頭辞付加が規範的でないラトヴィア語では、すでに接頭辞付加がなされている動詞への接頭辞pa-の付加は、ロシア語の接頭辞po-ほど広くは観察されない。 日本語との対照については、上記の2言語と構造的に離れていることから、本研究内では本格的に扱うことができなかった。今後の研究の深化に期待したい。
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